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ストレンジ・デイズ
□終わりは始まり


救急車で運ばれていった夏川が心配だったので、香月と一緒に後から搬送先の病院へと向かった。
夏川は保険医の言った通り軽傷で命には別状ないとのことだが、念のため検査入院することになり俺が来たときは広い個室のベッドの上で寛いでいた。そんな夏川の姿を見ておればようやく肩の力が抜けた。

それからあまり時間もたたないうちに夏川の両親が病院へ来た。母親は一度見たことがあるが父親は初めてだ。夏川似の格好良い父親で、俺と香月が巻き込んで怪我をさせてしまった事を謝ると、俺達を少しも責めることなく悪いのは怪我をさせた加害者の男だと言ってくれた。無茶なことをした夏川を怒りつつも、好きな女の子のために身体を張ったのは偉いと褒めていたくらいだ。うちの親とは比べ物にならないくらいの人格者で、女のふりをして騙していることが申し訳なく思えた。

そしてその少し後に俺の父親がやってきた。病室に姿を現した祐司は、普段は年齢より若く見えるくらい容姿には気を使っているのに、今日はめっきり老け込んで見えた。髪は汗でぬれているし、スーツも乱れている。俺の姿を見た瞬間、泣き出しそうな顔をしたがすぐに表情を変えて夏川達に向き直った。

「はじめまして、この子の父親の真宮祐司といいます。うちの子を守っていただいて、本当にありがとうございます…」

祐司が父親らしいことを言うので俺は横で見て驚いていた。よくよく考えてみれば祐司は仕事が忙しく俺達といる事は少なかったが、仕事を除けばいつだって俺達との時間を大切にしようとしていた。

「治療費はこちらで全額負担させていただきますので」

「そんなのはいいんですよ。お嬢さんが無事で良かったです」

「いえ、それだけでは足りないくらいです。元はといえば、この子が狙われたのも私が原因ですので責任はすべて私にあります」

祐司はベッドにいる夏川に近づいていき、再び頭を下げた。祐司がこんなに人に頭を下げる姿を今まで見たことがなかった。

「怪我をさせてしまって本当に申し訳ない。この子を助けてくれて……ありがとう」



その後警察に呼ばれたため、祐司と香月と共に病室を出る。今日はもう帰って休みたかったが仕方ない。祐司が送ってくれるというので、足取り重く俺は歩き始めたが祐司に腕を捕まれて歩みを止めた。

「? なんだよ?」

「響介、すまなかった。恐い目にあわせて…」

「あー、もういいよ別に。まあ会ったらキレまくってやろうと思ってたけどさぁ……」

俺に何も言わなかったのが一番腹が立つが、祐司があまりにも憔悴しているのでこれ以上責められなかった。俺が何か言えば泣き出してもおかしくない。こんな公共の場でそんなことになるのは困る。

「響介…!」

「おわっ」

祐司に強く抱き締められ、パニックで硬直する。気持ち悪いから離れろ、と言おうとした矢先祐司が口を開いた。

「お前が無事で良かった。お前に何かあったらお父さんは…お父さんは……っ」

「……」

いつ誰が通るかわからないし香月も見ているので恥ずかしい。しかし香月は俺達を見てハンカチで涙を拭っていた。どこに泣く要素があるんだと思ったが俺を抱きしめる祐司の手が震えてるのに気づいて、奴が俺の事を本気で心配していたのがわかった。嫌がって離れるのは簡単かもしれないか、今日ばかりは祐司の好きにさせてやろうと恥ずかしいのも我慢して泣き続ける父親の肩に手をそえていた。


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あきゅろす。
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