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ストレンジ・デイズ



人間が駄目、と言われてもすぐにはどういうことかわからなかった。東海林さんは俺から逃げるように後ずさり、部屋の隅で丸っこくなった。

「最初は、ただの潔癖症だったんだ…」

泣きそうな顔をした東海林さんは、震える声で話し出した。

「俺は生まれながらにして極度の潔癖症で、どこにいくにも手袋が必要だったし、人に触るなんてもってのほかだった」

「……はあ」

どうやら彼は人間が駄目になった理由を説明してくれるようだ。人が駄目という割にはペラペラとよくしゃべる人だ。対人コンプレックス、とは違うのだろうか。

「そんな俺だから、ずっと周りの奴らから疎まれてきた。…気づいた時にはもう、俺はすっかり周囲から孤立していた」

苦い過去を思い出したのか、東海林さんは唇を噛み締めさらに小さく縮こまる。

「そっからだ、俺がおかしくなったのは。俺は人と付き合うのを避け、家に引きこもった。ずっとそんな暮らしをしてるうちに、俺は人がすごく汚いものに見えてきて…ついには自分の親すらも駄目になった」

大人の男であるはずの東海林さんの瞳は潤んでいた。その姿はたいそう悲痛だ。

「そ、それは大変ですね。ところで──」

「そっからの日々は地獄だった。人は害虫にしか見えないし、外の世界に対する恐怖は消えないまま。こんな俺を雇ってくれる会社は当然なかった…」

「…東海林さん、あの─」

「いいんだ! 同情なんてやめてくれ! そんなのされたって惨めなだけだ」

「いえ、そうではなく」

俺は左手で彼をなだめ、右手で自分の足元を指差した。

「──俺、そろそろ部屋に上がっても、いいですか?」

「…………」

話の腰を折って悪いとは思っていたが、この時の俺はまだ玄関の沓脱ぎ石の上にいた。こんな場所では落ち着いて話を聞くことも出来ない。

しばらく俺のことをじとっとした目で見ていた東海林さんは、のっそりと立ち上がり俺に一歩近づいた。

「お前、血も涙もない鬼、って言われたことあるだろ」

「? ないですけど」

東海林さんは俺の答えに不服だったのかそばにある壁をゴンッと叩き、俺に怒りの視線を向けてきた。

「とにかく! 俺はお前なんか絶対住まわせないからな! ここは俺のテリトリーだ。他人と共有するスペースは一切ない! お前の大量の荷物でこっちは迷惑してるんだ!」

東海林さんは怒鳴り散らしながら、俺の簡単にまとめた私物達を指差す。この前学園を訪れた際に理事長に預けていたのだ。

「だいたい何なんだ、そのボサボサの髪は! 不衛生きわまりない」

「こ、これは変装です! やむを得ぬ手段ですよ!」

俺がムキになって反論すると、東海林さんはきちんと整えた髪型を崩さないように頭を抱え、俺を睨んできた。睨まれることには慣れているが、初対面の人にここまで邪険にされる経験はなかなかない。俺はちょっとばかし動揺していた。

「ああ、もう我慢できねえ!」

いきなりそう叫んだかと思うと、東海林さんは俺の頭をビシッと指差した。

「その清潔感のない姿をなんとかしろ! とりあえず風呂、お前ソッコー風呂入れ!」

「え」

響介様の付き人をやっていた時は、仕事柄清潔感というものを大事にしていたつもりだった。この教師スタイルは、そんなに不衛生に見えるのだろうか。微妙にショックだ。

「と、いうか俺、家に入ってもいいんですか?」

「仕方ねえだろ! お前みたいな不潔な奴、俺が黙って見過ごせるか!」

彼の言い方はひどかったけど、とりあえず夜を玄関で過ごす心配はなくなったようだ。

「じゃあお言葉に甘えて、お邪魔します」

家に入れてもらえたことにほっとしながら、俺は靴を脱いだその足で脱衣場に向かった。


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あきゅろす。
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