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ストレンジ・デイズ



「好き勝手言ってろ、何の苦労もしてないお坊っちゃんに俺の気持ちがわかるか」

「わかるわけねぇだろ。俺はあんたなんて知らないんだから。だいたい、何で俺なんだよ」

祐司の子供は俺の他に二人いる。なのに偽名まで使って隠れているのは俺だけだ。もちろん怜悧を狙われるくらいなら俺のところに来てくれた方が絶対いいが、理不尽なのは許せない。

「あんたが父親に一番好かれてるからに決まってるだろ。あの男に溺愛されてるだろうが」

「溺愛ぃ?」

思ってもない言葉が飛び出してきて口をあんぐり開ける。そして同時に沸々と怒りが湧いてきた。

「溺愛って何だよ溺愛なんかされてねーよ!」

怒鳴る俺に男と唄子が同時に固まる。俺を止めていた夏川までびくっと身体を強ばらせていた。

「あいつら俺らの誕生日もクリスマスも家にいねえし、授業参観にも運動会にも卒業式にも入学式にもまともに来たことなんかねぇんだよ! 一度だって仕事より俺達を優先したことなんかねぇし、確かに金だけは不自由なくもらってたけど、そんなもんより少しでも親らしい事してくれた方がいいに決まってんだろ!」

いったい誰に向かって何を言っているのか、自分でもわからない。けれどこの場で今までたまった鬱憤を吐き出さずにはいられなかった。

「親のせいで命狙われるくらいなら、貧乏の家に生まれて平和に暮らした方がよっぽどマシだっつーの。だいたい、俺はあいつらのこと親だと思ったことなんか一度もない! 俺の家族は怜悧と香月だけだ!」

香月はずっと俺の親代わりだったのだ。香月が来てから俺は寂しい思いをしなくて済んだ。今も昔も、俺は香月が大好きだった。

「キョウ様!」

俺を見て香月が叫んだ時には俺は走り出していた。咄嗟のことに夏川が俺を掴み損ねる。全員が気がついた時には俺は奴のナイフを持った手を強く握りしめていた。

「でも、お前が人質にしてる唄子の方がもっと関係ない。だから今すぐそいつを解放して、この危ねぇ凶器は俺だけに向けろ」

「っ……」

「唄子、離れろ!」

奴の腕を掴み握り潰すぐらいの力で切っ先を唄子から自分に向ける。唄子が男を振り払い奴から逃げた瞬間、逆上した男はもう片方の腕を振り上げ俺を殴ろうとした。

「くそ! 舐めやがって! お前は絶対俺が…ぐふっ」

気がついた時には目の前にいた男が横に吹っ飛んでいた。いつの間にか距離をつめていた香月の蹴りが綺麗に決まったのだ。

「俺の前で、響介様を傷つけるなんて……」

「か、香月?」

「……ぶっ殺す!」

「わー! 待て待て!」

本気で殺しかねない顔をしていたので俺が慌てて止めに入る。恋人を殺人犯にするわけにはいかない。俺が香月を羽交い締めにしてる間に、騒ぎを聞き付けた教師たちがようやく駆けつけて男を取り押さえてくれたので、俺はようやく身体の力が抜けた。


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あきゅろす。
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