ストレンジ・デイズ
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「香月…!」
ようやく現れてくれた教師が香月だったのは幸運なのか不運なのか。ここにいる先生の誰よりも頼りになるが、いくら香月が強くとも刃物を持った不審者に近づいてほしくはない。
「あなたは…田山、ですね」
香月がそう口にすると男がわかりやすく動揺する。先ほど本名を呼ばれた俺みたいだ。
「なっ………何なんだお前、そこから動くな!」
「俺は真宮家の関係者です。どうか、落ち着いて下さい。早まったことをしないで」
香月はまるでこいつがここにいることを初めから知っていたように冷静だ。訳がわからなかった俺は香月に我慢しきれずに訊ねた。
「お前、何でこの男の名前……」
「…彼は貴方をずっと狙ってたんです。黙っていてすみません。俺のここでの一番の役目は、あの男から貴方を守ることでした」
「えっ、そうなの?」
こんな見知らぬ男に狙われるようなことを何かしただろうか。自分がかなり好き勝手に生きてきた自覚はあるが、ここまで誰かに恨まれていたとは思っていなかった。
「待てよ、じゃあもしかして俺がここにこんな格好で通ってるのって…」
「すべてあの男に居場所がバレないようにするためです」
「マジかよ!」
どうりでトミーのことがなくなってもなかなか家に帰してくれないはずだ。もしかして祐司と怜悧もグルなのか? 混乱しすぎて何がなんだかわからなくなってきた。
「お前らのんきに話し込んでんじゃねぇぞ。この女がどうなってもいいのか?」
男に怒鳴られてはっと我に返る。そうだ、今は唄子を助け出すのが先決だ。
「待て待て待て、何で俺を狙ってるか、理由ぐらい聞かせてくれ」
「理由だ? そんなもん復讐に決まってるだろうが。お前の父親へのな!」
「父親って…祐司?」
「俺はあいつのせいで、職も家族も失ったんだ。あいつにも同じ思いを味あわせてやる」
「失った……ってまさか、祐司この人の家族殺しちゃったの?」
「違います。殺してません」
香月が一生懸命俺にこうなった経緯を説明してくれる。どうやらこの男は仕事で失敗して、自分の会社が祐司の会社に吸収合併される時、責任を取らされる形で解雇されたらしい。そしてそれが原因で妻子に逃げられたと。
「いやそれ自分が悪いんじゃん」
「キョウ様駄目ですよそれを言ったら!」
「あっ」
唄子を人質に取られているのに煽るような発言は駄目だ。案の定男を見ると怒りに拳を奮わせている。俺と香月は慌てて男を宥めた。
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