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ストレンジ・デイズ
□強襲


つられて振り返った俺の目の前にいたのは知らないおじさんだった。一瞬教師かと思ったが、よくよく見ると見覚えのあるエプロンをつけている。確かこれは香月がよく通っていた移動販売のパン屋のものだ。という事はこいつはあのパン屋の店員なのだろうが、一体ここで何をしているのだろう。

「あんたが小宮今日子か」

「? いや、そうだけどお前誰……」

「…やっと見つけたぞ、真宮響介」

「は?」

突然本名で呼ばれて俺は驚きのあまり飛び上がった。どうして俺の秘密がこんなよく知らないおっさんにバレているのか。

「何であんたがその名前……」

「キョウちゃん下がって!!」

唄子が叫びながら俺の腕を力強く引っ張る。そのまま倒されそうになったところを夏川に受け止められた。

「何すんだよ唄…っ」

突然の事にバランスを崩しながらも唄子に文句を言おうとするが、俺を庇うように立ちふさがった唄子がその謎の男にナイフをつきつけられているのを見て戦慄した。

「何だお前…邪魔するならお前から…っ!」

「唄子?!」

見知らぬ男に羽交い締めにされてナイフを突き付けられている唄子の姿を見て、俺はすぐに助け出そうとしたが夏川に捕まれて身動きが取れない。

「てめぇ!唄子に何しやがる!」

「うるさい。この女が刺されたくねぇならお前が代われ、真宮のガキ」

このどこの誰だかわからない男は、何故かわからないが俺の正体を知っている。そしてどうしてだか誰でもいいわけでなく俺の事を刺したがっているらしい。

「キョウちゃん来ちゃ駄目! この人はキョウちゃんが目当てなんだから、近づいたら殺されちゃう」

「お前が来ないなら、このお友達が代わりになるだけだけどな」

「っ!」

男の言葉に俺はパニックになった。唄子の声は冷静だったがナイフを突き付けられて身体は震えている。俺を庇ったりなんかしたせいで、唄子が危険な目にあっているのだ。すぐにでも奴をぶん殴って唄子を助け出したいのに、夏川が俺の腕をがっちりと掴んで離してくれない。

事態に気づいた周りが悲鳴をあげて俺達と距離をとり始め、唄子に向けられたナイフを見た生徒は悲鳴をあげている。これだけ騒ぎになったら誰か教師なり警備員なり警察なり呼んでくれているはずだ。逃げるならせめてそれぐらいはしてくれ。

「夏川、離せ。このままじゃ唄子が刺される」

「あいつの狙いはお前だ。お前が行った途端殺されるかもだろ」

夏川の真剣な声に息をのむ。こんな白昼堂々乗り込んで俺を殺しに来るなんて、どんな恨みがあるのか知らないが頭がおかしいとしか思えない。

「狙いは俺なんだろ! だったら唄子には何もすんな!」

「だからお前が今すぐ代われって言ってるだろ。友達を犠牲にする気か?」

「……夏川」

「だから駄目だって、行ったらお前が…」

「じゃあ唄子がどうなってもいいってのかよ!」

怒鳴り付けても掴んだ俺の腕を離そうとしない夏川。本当に俺が狙いなら唄子が殺される事はないかもしれない。でもそんなの絶対じゃないし、あの女に痛い思いをさせるのも傷をつけられるのもごめんだ。相手は何の変哲もないおっさんだ。刃物を持ってるとはいえ俺も男だ。あんなやつ返り討ちにしてやる。

「キョウ様! その男から離れて下さい!」

夏川を蹴り飛ばしてでも唄子を助けに行こうとした時、声が聞こえて思わず身体が止まる。振り返るとそこには息を切らした鬼の形相の香月がいた。


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