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ストレンジ・デイズ



俺はその日ずっと苛ついていた。香月に隠し事されるのもムカついていたし、自分があいつに嫌われるのが嫌だからといって、言いたいことが言えなかったことにも信じられない思いだった。



その日の昼は唄子と一緒に食堂で昼食をとっていた。俺はカツ丼、唄子はオムライスを食べていたが途中で唄子にメールが届いたらしくじっと携帯を見ていて口が動いていない。普段は食事中に携帯なんか見ない奴なのだが、よっぽど緊急の用件なのだろうか。

俺はトミーに真実を告げられてから毎日生徒会専用の席で食べることはなくなった。もちろんお弁当も作っていない。その日も生徒会の席からは距離のある席に座っていたが、通りすがりらしい夏川が俺に話しかけてきた。

「よお、辛気くせぇ顔変わってねぇじゃねえか」

「……」

「その面見るに、いい話は聞けてねぇみたいだな」

「……うるせぇ」

今こいつとは話したくない。俺はひたすら目の前のカツ丼を食べることに集中していた。それなのに夏川はもっていた定食のプレートを俺の横に置く。おい、誰が一緒に食べるって言った。

「その様子じゃあ納得いく説明はもらえなかったみたいだな」

「そんなこと……ただ…」

「ただ?」

「信じてくれ待ってくれって」

あの時の香月の顔を思い出して箸がとまる。ずっと昔から香月の事は信じられる。というより彼が信用できなくていったい誰が信じられるというのか。でも今、香月が何を考えてるのかはわからない。

「そんなテキトーな言い訳で納得してんの? お前は」

夏川が俺の腕を掴んで耳元で囁くように言う。納得はしていないが、これ以上何も聞くことができなかったのだから仕方ない。

「ここにいたらお前が危ない目にあうかもしれないのに転校させないんだろ? こんな女装までさせてさぁ。ありえねぇだろそんなの」

夏川が俺に囁きながら肩を抱き寄せてまっすぐこちらを見つめてくる。性格に似合わず、ずいぶん澄んだ目をしているものだ。この外見なら男が惚れるのもわかる気もする。

「お前、前からあいつの知り合いなのかもしれねぇけど、自分にはあいつしかいねぇって思いすぎなんじゃねぇの。ちょっとは他の奴も見てみろよ」

「他の奴?」

「ずっと言ってんだろーが、俺はお前が好きだって」

「……」

やけに真剣な口調で再び告白されて、沈黙が流れる。この前断ったのにこいつはまだこんなこと言ってるのだろうか。本気で言われてる以上、こちらも本気で応えなければならない。でも何度も振るのだって疲れるのだ。どうしたら諦めてくれるのか言葉を迷っていると、前方から熱い視線を感じた。そこに目をキラキラさせて指の隙間からこっちを観察する唄子の姿があった。しまった、こいつのことをすっかり忘れていた。

「あっ、やだー。あたしのことはおかまいなく。続けて続けて」

「うるせーこんなん続けてられっか! 離せ夏川!」

勢いよく手を振り払い会長から距離をとる。すっかりテンションが上がっていた唄子はがっかりした声を出す。俺は見世物じゃないっていうのに。

「何度も言うけど、俺は男なんか好きじゃねえの! 俺の好みはもっと華奢で可愛くて、…とにかく、お前みたいな俺よりデカい男なんかと絶っ対付き合ったりしねぇから! 俺にとって香月は別枠! 特別! あいつと付き合ってるからって、男がいけるとか思わないでくれ!」

わりと大きめの声でばっさりと振ってやった。これでさすがのこいつも諦めてくれるだろうと思ったが、夏川だけでなく唄子の視線までも俺でなく俺の後方に向けられていた。


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