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ストレンジ・デイズ



夏川の言葉に腹が立った俺はその日の夜、香月に洗いざらい吐いてもらおうと大事な話があるとメールして待ち構えていた。しかしその日も香月は忙しいらしく行けないと断られ、結局何もわからずじまいだった。俺の大事な話より優先するような用事が香月にあるなんて。何よりも俺を優先するような男だったのに、こうなってくると俺が何を言おうとしているかわかってて避けている可能性が高くなってくる。
俺は誰にも相談することも愚痴ることもできず、その日はもやもやしたまま就寝した。


次の日の朝、目覚めが最悪だった俺は唄子に引きずられながら登校した。今夜も香月は来ないつもりなのだろうか、そう考えると授業どころではない。生物の時間に香月が現れた時、思わず詰め寄りそうになったがぐっとこらえて授業が終わるまで待った。

「香月!」

さっさと教室を出ていってしまった香月の肩を掴んで足止めする。いつも俺の顔を見るたび嬉しそうにしていたのに今日はどこか笑顔がひきつっていた。

「キョウ様…」

「何で昨日来なかったんだよ」

「…すみません。忙しかったもので」

忙しくても俺の指示には従うもんだろと思ったが、こんな廊下のど真ん中で喧嘩するわけにもいかない。俺は奴の背中を押して歩きながら話すことにした。

「俺はいつここから出られるのかおしえろ」

「それは、もう少しお待ちいただければ」

「そう言っていつまで待たせるつもりだ。わかってるんだぞ、お前が俺をここから出したくないことくらい。今日こそはその理由を説明してもらうからな」

香月の顔色がわかりやすく変化する。なんとか取り繕おうとしていたが、今の俺を見て無理だと悟ったのだろう。無言で歩き続ける。ようやく口を開けた香月は暗い顔つきだった。

「……すみません。今は何も、申し上げることができません」

「俺に隠し事する気か?」

やっぱり、香月は俺をここに留めたがっていたのだ。しかし俺に話すことはできないその理由は何なのか。まったく見当がつかない。考えれば考えるほど、夏川が言った言葉が頭をよぎる。女装していない俺には興味がないから俺をここから出さないなんていう馬鹿げた話だ。

「香月、お前は……」

本人に直接きいてやろうと口を開いて、それ以上の言葉が出てこなかった。俺は突然、恐ろしくなったのだ。香月なんて、少し前まで俺の使用人で保護者代わりで、それだけのはずだった。付き合い始めたのだって向こうがそれを望んだからだ。なのに俺のこと本気で好きなのか、という言葉が怖くて出ない。それでもし香月に一瞬でも後ろめたい表情をされたりなんかしたら、もう耐えられないだろう。

何も言わない俺を見て香月が足を止める。視線をそらして立ち止まる俺の肩に優しく手を添えた。

「キョウ様、今は俺を信じて下さい。ここにいることがあなたにとって一番良いんです」

「俺にとって?」

「そうです。詳しい事は言えませんが、今はここが……」

話の途中で香月の携帯が振動する。香月は俺に断りを入れ通話ボタンを押した。

「はい、香月です。…東海林さん?」

東海林、という名前は確か香月の同居人だ。若干イライラしながら電話が終わるのを待つ。

「どうしました……えっ、それ本当ですか」

香月は真剣な表情で東海林とやらの話を聞いている。とても邪魔できる雰囲気ではなかった。

「それならもっと早く連絡してくれなきゃ……はい、はい、とりあえず確認に向かいます。それでは。……すみませんキョウ様、急用ができました。失礼します」

電話を切ると香月は俺に謝ってさっさと走っていってしまう。気迫に押されて止める間もなかった。俺の中で、香月の信じて下さいという言葉だけがずっと残っていた。


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