ストレンジ・デイズ
□
「まずいぞ香月!!」
「…?」
その日の放課後、部屋に香月が来るなり俺は叫んだ。事情を俺から聞いていた唄子は俺達の話に聞き耳をたてつつ、香月にお茶を用意してくれていた。
「どうかしましたか」
「デフのトップの、すげー美形の奴いるじゃん」
「ええ、荒木ですね」
「そう! 今日そいつに胸さわられて…」
「は?」
「いや違、ちょっとした事故なんだけども、とにかく俺に胸がないのバレちまって……男だってわかったかも」
あたふたする俺の話をうんうんときく香月はやけに落ち着いている。まるでもう何があったか聞いていたみたいだ。
「それなら問題ありませんよ。荒木から話を聞きましたが、彼はあなたを男だとは思ってません」
「そ、そーなの?」
「ええ。荒木は女子に免疫がないので大丈夫です。あんなに胸がない女もいるんだなぁとか言ってましたし」
「……」
ひとまず安心していいとみたいだとほっとしつつ、荒木と親しげな香月にムカついてきた。俺があいつにされたことを香月に言ってないから仕方ないのだが、あの男とはそんなに仲良くして欲しくない。
「……何かお前って、こっち来てからモテてる気がする」
「はい? なんの話ですか」
「前は俺の部屋で俺の世話してるだけだったのにさぁ、あーあ」
そう考えるとさっさとこんな場所から撤収して香月にはずっとうちにいてもらった方がいいかもしれない。今回の事で香月外になんか出したらすぐ悪い虫が寄ってくるということを、嫌というほど実感させられた。
「とにかく、今回みたいな事がいつまた起こるかわからねえし、なるべく早くこっから出ないとまずいだろ。女装男として捕まるのだけは避けたい!」
「…確かに、そうですね」
「なあ香月、俺ってあとどれくらいここにいんの?」
「ただいま編入先を探しております。もう少しだけお待ちください」
「……」
無機質なコンピューターみたいな回答に顔をしかめる。俺の頭が良くないから香月もきっと苦労しているのだろうか。もう金さえ積めば入れる底辺校でも何でもいいのだが。ここに入った時みたいに女装するわけでもないのだから、私立ならば探せばいくらでもありそうなのに。
唄子が私二人の邪魔者っぽいから部屋の隅っこに寄って存在感消そうか?などと馬鹿なことを言っていたが無視をする。食事の用意が出来たので編入の話はそこで終わってしまったが、まさかあんなことになるなんて、この時の俺は思いもしなかった。
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