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ストレンジ・デイズ
■前途多難な同居人


その日、案の定俺は新名先生にこってりしぼられた。朝の遅刻が原因だ。そしてあてつけのように残業を言い渡され、仕事が終わる頃には外は真っ暗になっていた。

あれから響介様はどうしたのだろう。彼のことだから、寮でずっとふて寝でもしていたのだろうか。何にせよ唄子さんにあまり迷惑をかけていなければいいが。

俺は真夜中の学生寮を横目に見ながら、正門に向かっていた。守衛管理室で寝泊まりしているという、東海林さんに会うためだ。理事長が話はついていると言っていたが、やはり初対面の人と会うのは緊張する。朝、門を開けてもらっているので、まったく初対面というわけでもないが。

守衛の東海林さんの住まいは、正門のすぐ横にあった。失礼な話だが、今まできらびやかな校舎を見ていたせいか、プレハブ小屋にしか見えない。それにしては大きくて丈夫そうだったが。

インターホンがなかったので俺は扉をノックした。反応がなかったのでさらに強くドアを叩くも、何の返事も返ってこない。不審に思いつつも取っ手に手をかけると、鍵が開いていた。
開けてもいいだろうかとためらいつつも、ここにずっと立っている訳にもいかず俺はそっと扉をひいた。

「失礼しまーす…」

部屋の中は真っ暗で何も見えなかった。留守なのだろうか。だとすればかなり不用心だ。とその瞬間、上から何か迫ってくる気配を感じ俺は反射的にそれを手で受け止めた。

「うわああ!」

「くそっ…」

俺が驚きの声をあげると同時に人の声がした。すぐ目の前に誰かいるらしい。

「あの、怪しいものじゃないんです! 俺は今日からここに──」

「それは知ってる」

俺が必死に説明しようとするとぴしゃりと言い返された。随分ドスのある声だ。でもどうしていきなり攻撃なんてしてきたんだろう。
俺が疑問に思っていると、パチンと音をたてて目の前の男が部屋の電気をつけた。
周りが明るくなって、俺が手にはさんでいるものがハタキだと知った。どうやらこれで俺を叩こうとしたらしい。

「お前」

俺がハタキをまじまじと見ていると、おそらくは東海林さんであろうその人が声をかけてきた。彼はその威圧感ある声とは裏腹に、繊細な顔をしていた。

「今すぐ、出ていけ」

「え?」

東海林さんは外を指差して俺に命令する。心なしか声が震えてる気がした。

「し、東海林さんですよね?」

なぜ彼がそんなことを言うのかわからないが、とりあえず話し合わなければ。俺はここしか行くところがないのだから。

「理事長から聞いてると思いますが、俺はここに─」

「あああ! 入ってくんじゃねえ!」

俺が靴を脱ごうとした瞬間、東海林さんが手をかざして俺を入れさせまいとする。彼の様子はどこか異様だ。

「どうしたんです? 大丈夫ですか?」

心配になった俺は彼にそう尋ねた。刺激させないようその場に立ったままで。

「俺は誰かと一緒に暮らすなんて無理だ! 理事長がどう言おうと関係ない!」

息があがったまま怒鳴り散らす東海林さん。違和感を感じた俺が彼に近づこうとした瞬間、

「やめろ! そんな汚い足で俺の部屋に入るな!」

怒鳴られた。俺の体は不自然な体勢でかたまる。怪訝な表情の俺を見て東海林さんがしまったという顔をした。

「す、すまない。初対面の人間に言うことじゃないよな。悪気はないんだ」

俺は特に気にしなかったが、東海林さんは大丈夫そうには見えない。彼はすっかり気が動転している。とにかく普通じゃなかった。

「あの、何かあったんですか」

俺が出来るだけ慎重にきくと、東海林さんは薄い唇を震わせながらゆっくり開いた。


「俺──、人間が、駄目なんだ」


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