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ストレンジ・デイズ




俺は人気のない校舎裏に響介様を連れ込むと、暴れる彼を解放した。自由に手に入れた響介様は問答無用で俺を突き飛ばすと、よろけて倒れた俺の肩を再び容赦なく踏みつけてきた。

「お前、俺に言うことがあるだろーが」

「……靴を脱いで下さってありがとうございます?」

「ちげーよ!」

そのまま再び顔面を踏みつけられる。罰を与えてるつもりなのかもしれないが、俺にとってはある種のご褒美になってしまっている。

「ろくに会いにも来ねーで何やってんのかと思ったら、堂々と浮気してやがったことに対する謝罪だろーが!」

「してません! そんなこと俺にできるはずないじゃないですか」

「だったら何で俺に全然会いに来ねぇんだよ!」

「それは……」

荒木と鬼頭に襲われた痕跡を誤解されたくなかったからです。といってしまうのは簡単だがそんなことを暴露すれば響介様が単独で成敗しに行ってしまう。あの二人が響介様を傷つけられるとは思えないが、大事な響介様を奴らには近づかせたくないし俺達の関係がバレるわけにはいかないのだ。

「忙しかったんです。それだけです」

「あの眼鏡と仲良くパン食べてる暇はあるのに?」

「だからあれはあそこのパンが美味しすぎて、パンを目当てに通っていただけなんですって。どうせ学校では俺と響介様が表立って仲良くするわけにはいかないじゃないですか。仮にも教師と生徒なのに」

「……それはそうだけど、今のはそういう問題だけじゃねぇだろ」

響介様も俺の言いたいことはわかっているらしく、それに対して反論してくることはなかった。しかしそれで俺がしていたことに納得できるわけではない。

「お前はいったい誰のものなのか、ハッキリ言ってみろよ」

「俺は響介様のものです」

即答する俺に満足したのか、乗せていた足をどけてくれる。響介様は本当の女子ならばパンツ丸見えの男らしいしゃがみ方をして、尻餅をつく俺の頭髪を今よりもさらにぐしゃぐしゃにした。

「わかってるなら、もう他の奴と仲良くなんかすんな」

「……はい」

「つーかお前、今はキモい見た目してるくせに何モテてんだよ! イケメンオーラでも出してんのかこいつ〜〜」

「響介、さま……苦し……」

またしても俺を羽交い締めにして揺さぶる響介様。俺は嬉しすぎて校内ということも忘れ、つい彼の肩を抱き寄せてしまう。響介様は俺の上にどかっと座るとそのまま俺の身体を締め付けるように抱き締めた。

「……会いたかった」

ぼそりと呟いた響介様の言葉に俺は胸が締め付けられそうだった。
俺は、なんということをしてしまったのだろう。俺の行動は考えていた以上に響介様を深く傷つけた。もし逆の立場なら俺は苦しくてたまらなかっただろうに、響介様がどう思うかなんて考えていなかった。彼が俺を好きと言ってくれている気持ちに嘘はないだろうが、それはずっと所有物の一つとしてだと思っていた。俺が他の誰かと親しくしていても怒りこそあれ悲しみなどないと思っていたのだ。響介様の自分への気持ちを、俺は全然わかっていなかった。
これは護衛としてもお世話係としても、もちろん恋人としても失格だ。

「俺は何があっても響介様のものです。もし旦那様が俺達の関係に怒っても、俺はもう諦めません。あなたを拐ってでも一緒にいます。絶対に幸せにしてみせます」

「そんなの、当たり前だろ」

まるで押し付けのプロポーズのような言葉に響介様は頷いてくれた。あんなにお世話になった旦那様を裏切ることになっても、俺は響介様と一緒にいたい。いつか素敵な女性と結婚して幸せになってくれればいいと思っていた昔の俺はもういない。いや、あれだって本当は、心の底ではそんな事微塵も思っていなかった。俺は自分に言い訳して、響介様に嫌われることを恐れていただけだ。

市浦君と個人的に仲良くするのはもうやめよう。彼は何も悪くはないが、響介様の嫌がることはしたくない。俺は教師である前に響介様の大切な所有物なのだから、彼の事だけ大切にしていきたい。


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