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ストレンジ・デイズ



放課後、校内の見回りをしていると余目君と樽岸君の二人に計ったように捕まってしまった。やけに笑顔の彼らに両側から腕を掴まれて強制的に石段の上に座らされる。

「先生、久しぶりです」

「あんまり会えねーから寂しかったっすよ」

「久しぶりですねぇ、お二人とも。…あの、狭いんですけど」

捕獲された俺は二人に挟まれて圧迫感がすごい。授業では顔を合わせているが最近の俺は荒木から逃げているので、結果的に余目君達からも逃げることになっていた。

「最近、調子どうっすか?」

「最近?」

「何か変わったことは?」

「ああ、ここで売ってるパンが美味しいですね。今はパンにはまってます」

「じゃなくて! 最近、先生って市浦と一緒にいるじゃないですか」

「…市浦君?」

何が言いたいのかと思ったがどうやら二人の目当ては市浦くんらしい。いったい彼が何だというのだろうか。

「そうですけど、それが?」

「あいつとつるむのやめた方がいいっすよ。荒木さんの機嫌が悪くなるから」

「…市浦くんは荒木と仲が悪いんですか」

「悪いっていうか…荒木さんはあの顔と喧嘩の強さ、市浦は人望と頭の良さでデフの人気を二分してるから。ちょっとした勢力争い? みたいな?」

「ああ…」

荒木は間違いなくデフの頂点に立つ男だが性格に難がある。荒木ではなく市浦君についていきたいと思うデフの生徒がいてもおかしくはない。

「まぁ、俺はあいつ嫌いだけどな」

「俺も」

余目君と樽岸君が口を揃えてそんなことを言うので、一応理由を訊ねた。

「何故です? 市浦くん良い子ですよ」

「無駄な正義感がウザい」

「人類みな友達みたいなノリが暑苦しい」

「それはあなた方の心が汚れているからでは?」

「先生酷っ」

二人は完全な荒木信者なので対抗馬になっている市浦君が気に入らないのだろう。そして彼と仲良くしだした俺のことも気に入らないと。

「そもそも先生、なんで自分があんなに市浦に絡まれてるかわかってんすか?」

「それはパンが…」

「だからパンの話はもういいですって。奴は先生が荒木さんに狙われてると思ってるから、そうならないように守ってるつもりなんですよ」

「えっ、そうなんですか」

「そうっすよ。あいつが意味なく先生に話しかけたりするわけないっしょ。人助けが趣味みたいな奴なんだから」

もしかして俺みたいな教師になりたい云々は俺と仲良くするための方便なのだろうか。いや、彼は嘘をつけるようなタイプじゃない。俺を守りたいのも、俺みたいな教師になりたいというのも本当だろう。

「いやでもおかげで荒木に会う回数は減ったような…」

「あれでも多分荒木さんは我慢してるんすよ。一度市浦と悶着起こしたらD組とF組の全面対決になりかねないから。だから、これ以上先生に市浦と仲良くしてもらっちゃ困るんです。すでに荒木さんのストレスはたまりまくってるんですから…!」

樽岸君の言葉の意味がわかるようなわからないような。なぜ俺と市浦君が親しくなるのが荒木と争うことに繋がるのだろうか。俺にちょっかいをかけることが、荒木にとってそんなに大事なことだとは思えない。でもその辺りを突き詰めるのは怖いし面倒なので、俺は考えるのをやめた。


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