ストレンジ・デイズ
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「で、結局なんでお前は荒木の女だとか言われてたんだよ」
「……」
せっかくだからもっと恋人らしいことをしておきたいと、狭い二段ベットの上段に香月と一緒に寝ていた俺は気になっていたことを問い詰めた。香月的にはその辺はなあなあで誤魔化したかったみたいだがそうはさせない。香月は俺の手を握りながら、渋々話し始めた。
「……えーとですね、実は荒木はデフのトップなんですが。俺は風紀委員として彼らを抑制するため、まずは頭を何とかしようと思い荒木に近づいたのが始まりでして」
「ああ」
「彼はだんだんと俺に心を開いてくれるようになって、デフも落ち着きはじめたんですが、あまりの平和ぶりに荒木が俺に手懐けられているのではないかと言う噂がデフの間で流れたんです」
「ほう」
「それに反発した一部のデフが荒木の支持をやめて好き勝手に動こうとしたので、俺と荒木で一芝居うちました。俺ではなく荒木のほうが俺を支配してるように見せかけることにしたんです。それで俺が荒木の女になったという噂を流すことになりまして」
「はあ? なんだそりゃ」
「馬鹿馬鹿しい考えですが、これでうまくいってるんですから噂を真っ向から否定することもできません。申し訳ないですが、しばらくはこのままです」
「ふーん……」
確かに理由としておかしくはないかもしれないが、香月は何か隠しているような気がする。だってこの状況では香月がデフに甘く見られるだけだ。しかも生徒にいいようにされてるなんて、それで平和になるのだとしても大ダメージだろう。香月のメリットがなさすぎる。
「……まあ別に、そういうことにしてやってもいいけどな。今は」
「え?……んッ」
俺は香月の首筋に噛みつくように吸い付き、痕が残ったのを確認する。初めてだがうまくいった。
「な、何です。いきなり」
「牽制だよ。なるべく目立つところにつけてやったから、お前に近づく野郎に見せつけとけ」
「え!?」
焦って首元に触れる香月。満足げに頬笑む俺をじとっとした目付きで俺を見てくる。
「……どこでそんな手を覚えてきたんですか」
「俺には参考になる教科書があるって言ったろ」
「?」
ありがとう、唄子のBL本。こんなところでも役に立ってくれるとは。
「いいか、誰かに口説かれたら、ちゃんと付き合ってる奴がいるって言って断れよ。相手が俺だってのは言えなくても、それくらいできるだろ」
「はい、わかりました」
香月はやけに男前な顔をして俺を見る。そして狭くてなにもできないと言ったベッドの上で俺に覆い被さってきた。
「何やってんだよ、お前」
「俺だってキョウ様につけたいです」
「いやお前、それは」
香月は俺の服をめくり上げると、胸もない貧相な身体にキスをした。顔を真っ赤にして首を振る俺を見てもやめようとはしない。
「大丈夫、見えるところにはつけません」
「んなの、当たり前、だろーが……!」
こいつは俺みたいに教科書もないくせにどうしてこんなに手慣れているのか。思わず浮気を疑いたくなったが、俺と付き合う前の香月の行いを責める権利はない。……いや、香月はずっと俺が好きだったのだから、不貞な行為は浮気とカウントしてもいいはずだ。
「香月」
「……っ、はい」
「他の奴とこんなことしたら、ぶっ殺すからな。もちろん相手の方を」
「……するわけないでしょう」
「肝に命じとけよ、そうなったら確実に俺がお前を抱く方にまわるから」
「……」
香月の方はそんな気がなくとも相手はわからない。俺がここまで譲歩してるのに、他の奴に香月を好きにされるのは我慢ならない。俺は初めて、香月がこんなダサい髪型と眼鏡をしていることに感謝した。
香月は「そんなことには絶対なりません」と断言していたが、能天気なものだと俺は香月をぎゅっと抱き締める。奴は誰もが魅了されるような笑みをこぼして、俺に何度もキスしていた。
いつの間にか眠っていたらしい俺は、やけに早い時間に目が覚めた。外はまだ薄暗い。香月の姿はすでになく俺が眠っているうちに出ていったのだろう。早寝しすぎたため目がさえていた俺は、備え付けの小さな冷蔵庫からコーヒーを出して飲んでいた。そして二段ベットの下段で眠りこける唄子を見て、自分のド忘れを思い出した。
「唄子ごめん! マジでごめん!」
連絡するのを忘れていことをひたすら詫びまくるも、唄子は寝起きで不機嫌なこともありずっと怒っていた。
「あたし香月さんが来るまでずっと外で待ってたんだけど。何で連絡してくれなかったわけ?」
「忘れて寝ちゃった……」
「はあ? ころす」
「……ごめんて」
「で、香月さんとの進展は?」
「んなもんねぇよ」
「マジでぶっころす」
唄子は捨てゼリフを吐き出すと再び横になって二度寝を始める。俺は唄子にどれだけ罵倒されても上機嫌なままで、鼻歌まじりに朝の準備を始めた。
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