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ストレンジ・デイズ
□恋人同士がすることは


その日の夜、何も言わなくても来る香月を俺はわざわざ部屋に呼び出した。出張帰りの香月はいつもより小綺麗な風貌ではあったが、ダサい眼鏡はそのままだ。
唄子と三人でカレーを食べた後、俺は唄子にタッパーに入ったカレーを押し付けた。

「唄子、今からこれを善に届けてくれ」

「えっ」

「おすそわけだ」

「…知ってるけど、いつもキョウちゃんが渡してるじゃん。何であたしが?」

「いいから、今日だけ唄子がもっていけ。そして一時間くらい戻ってくるな」

「はあ?」

唄子は心底意味がわからんという顔をして俺を見る。そして何も言わない香月を見て察したように俺を睨んだ。

「なによ、あたしを除け者にして二人きりになろうっていうの?キョウちゃんと香月さんが仲良くしてる姿を見るだけで幸せになれるあたしを排除するなんて酷いじゃない」

「うるさい、いいからこれを善に届けろ。話終わったら連絡するから、それまで帰ってくんな。携帯もって行っとけよ」

「えーー!」

「えーじゃない。大事な話なんだから仕方ないだろ」

俺の本気が伝わったのか唄子は不満そうにしながらも引き下がった。恨みがましい目で俺を見ながら薄手のパーカーを羽織る。

「はいはい、わかったわよ。あたしだって二人の邪魔はしたくないんだから。その代わりなにか進展したらちゃんと話してよね!」

「進展って何だよ。何もしねぇよ」

ぷりぷりしながら唄子が部屋を出てすぐ鍵をかける。たまに俺達の事に気がついてるのかと思うような発言をする唄子だが、多分殆ど妄想なので気にしないようにしよう。

「キョウ様、話というのは?」

にこにこ微笑みながら正座する香月は、首をかしげながら訊ねる。今日の事を思い出して俺は段々とイラついてきた。

「眼鏡はずして、俺によく顔を見せろ」

「……?」

「早く」

俺はとことん香月を問い詰めるつもりだった。嘘をつけばすぐにわかるように、表情を読み取るため奴に近づく。顔に手をかけ、優しく上を向かせた。

「キョウ様……?」

「何顔赤くしてんだよ」

「だ、だって」

ほんのり頬を赤らめる香月の顔は見れば見るほど色気があって、男だろうが女だろうが変な気を起こしたとしてもおかしくなかった。それに比べて女装していない俺のなんとつまらない顔か。自分の見た目なんて殆ど頓着したことはなかったのに、何故いまそんなことが気になるのか不思議だが。

「キョウ様、あの、それ以上は……いえ、俺としては嬉しいんですが」

「嬉しい? 何で?」

「……好きな方に触ってもらえるのは、嬉しい事です」

「香月、お前」

「はい」

「デフの荒木実美の女にされてるってのは、本当か」

香月の顔が一瞬で青ざめる。それは間違いなく、何か心当たりのある人間の顔だった。

「っ……!」

そのまま乱暴に香月を床に押し倒す。冷静にならなければと思っているのに、身体は怒りで制御できなかった。

「キョウ様、誤解です……!」

「何が誤解なんだよ。どう見ても思い当たることがある人間の顔してただろーが」

「違うんです。荒木とは、断じてそんな関係ではなくて」

「へえー、でもお前から俺はアイツを紹介されたし、仲良しなんじゃねぇの? あの男、かなり美形だったしな」

「はい?」

「ほんとはああいうのが好みなんじゃねぇのかよ。お前は荒木の女だって、デフの奴らが言ってたしな」

香月の上にのし掛かり、身動きがとれなくなった香月を責める。荒木実美の綺麗な顔とクズみたいな性格を思い出して、嫉妬の怒りを燃やしていた。

「何で俺があんなやつの女にならなくちゃいけないんですか。俺はキョウ様が好きなんです。お願いですから、それだけは疑わないで下さい」

「の割りにはうちの担任とか兄貴とか、色々たぶらかしてるだろ。そういやキスとかしてたっけ。肝心の俺には何もしねーくせにな」

俺の言葉に香月は少しむっとした顔をして、俺の腕を掴む。奴はそのまま反動をつけて身体をひねると今度は俺が床に倒されていた。どういう技なのか、押し倒されても痛みはない。主導権を握られて、俺は香月を睨み付けた。

「キョウ様」

「な、なんだよ」

「俺はキョウ様にだったら、なんでもできます。それに、」

「……それに、何」

「今すぐにでもどうにかしてやりたいのを、俺は必死に我慢してる。なのに、なぜ貴方は俺の事を追い詰めてくるんですか」

香月は今まで見たこともないような目をして俺を見下ろしていた。香月の中の地雷と呼べるようなものを踏んでしまったのだと、俺はその目を呆然と見返していた。


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あきゅろす。
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