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ストレンジ・デイズ



「失礼します!」

暴れまくっていた俺は、教室の扉を勢いよく開けた男の顔に釘付けになる。そこに立っていたのは目立つ風貌のスキンヘッドの生徒に、俺は思わず彼の名前を叫んだ。

「ゆーき先輩!!」

取り押させられる俺の姿を見て、先輩が目を見開く。後ろにいた金髪の先輩の友人もまったく同じ顔をしていた。

「お、まえっ、何だよその格好は! 一瞬誰かと思っただろうが」

「ゆーき先輩助けて! ください!」

俺が必死に叫ぶと遊貴先輩はすぐに俺を掴んでいたデフを蹴散らして救い出してくれた。先輩は鬼のような形相で俺を見ていたが、俺は感謝のあまり頭を下げまくっていた。

「何でお前ここにたどり着いてんだよっ。わざと嘘情報おしえたのに」

「あれ嘘だったんですか?!」

「いやそんなことよりもその格好、マジで意味わかんねぇ事してくるよなお前」

「ゆーき先輩、小山内の事も助けてください」

「人の話を聞け」

先輩は状況を見て困ったことになったと天を仰いでいた。隣にいた金髪の友人の男は自分は知らないとばかりに他人のふりをしている。

「荒木さん、誉さん、この二人に何かしたらとんでもないことになります。割りとマジで! だから早く手を離してください!」

「遊貴、そいつお前の知りあい?」

小柄な男が遊貴先輩に訊ねる。なんと説明するべきなのか、俺はハラハラしながら先輩の言葉を待った。

「……その二人は、小宮今日子の親友なんです」

「!?」

先輩の言葉にその場にいた全員が何らかのリアクションを見せていた。荒木なんかはあからさまに顔をしかめて小山内から手を離した。

「なのでこの二人に何かしたら小宮今日子に筒抜けです。そりゃもー大の仲良しの二人ですから、こいつらに何かあればきっと小宮も怒り狂って荒木さん達を絶対許さないと思います。だからこの二人はさっさとここから追い出しましょう! 今からでも俺が放り出してきます。口止めも俺がしますしお二人の手は煩わせませんので!」

早口でそう捲し立てながら俺と小山内の腕を掴むと、ダッシュで教室を飛び出す先輩。全員がどう対応するべきか迷ってる間に逃げ出したのがうまくいった。俺と小山内の手を引いて走る先輩はこの時ばかりはヒーローに見えた。


「くっそ…荒木さんに絶対どやされる……」

寮の前まできて先輩は足を止め、誰にともなく呟いた。俺を助けたことで先輩の立場が悪くなったことはわかった。

「先輩、本当にありがとうございます」

思えば、この人相手に心の底から敬語を使って礼を言ったのはこれが初めてだった。

「あのなぁ、お前がちゃんといつもの格好で荒木さんに会ってれば、あんなことにはならなかったはずだぞ。それにお前あの人にお礼言いに行ったんだろ。それがなんであんなに喧嘩になってたんだよ」

「それは色々事情がありまして…」

「事情? 荒木さん怒らせるくらいだから相当な事情があるんだろうなぁ。ああ?」

「あの…」

キレて昔の恐ろしかった先輩に戻りつつあったが、泣きそうな小山内に声をかけられて意識がそちらに向かう。眼鏡のない小山内は天使のような可愛さでこちらを見ていた。

「助けてくださって、ありがとうございました」

「お、おお…」

「今回の事は僕が全部悪いんです。だから、小宮さんを責めないでください…」

「ああ…」

小山内の可愛さにやられてか素直に首肯く先輩。俺に誰こいつ、と視線で訴えてくる。

「こいつはクラスメートの小山内です。んで、この人が中学んとき一緒だった樽岸先輩」

俺の紹介に小山内が再び頭を下げる。遊貴先輩もつられて頭を下げている。

「小山内ってあの会長の…? こんな顔だったのか? かなり面倒なことになってんな」

「先輩はどうして来てくれたんですか」

「万が一ってことがあるだろ。お前が荒木さんと会ってたらややこしいことになると思ってな。予想以上の修羅場だったけど」

「あれは、あの野郎が香月のこと自分の女扱いなんかしやがるから」

「…あ、あーそうか、それでか」

「正直、今だって殴ってやりたい。なんだってあいつはそんな嘘言うんすか」

「それは…」

言葉を濁す遊貴先輩に嫌な感じがする。俺に何を話すか頭をフル回転させて考えている顔だ。

「まさか、嘘じゃないのか」

「いっ、いや嘘だよ! 嘘に決まってんだろ」

先輩の焦った顔に俺は絶句する。香月は俺の知るなかで誰よりも強くて、そして純潔という言葉が似合う存在だった。あんな威勢だけの弱そうな男に負けたなんて信じられない。
いや、もし他のデフと共謀していたら。何人もの男に押さえつけられたら、さすがの香月だって抵抗できないかもしれない。
そうしたら、もしそうだったら、どうしよう。

「……っ!」

「おい! どこ行くんだよ!」

俺はいてもたってもいられずその場から走り出した。行き先はもちろん香月のところだ。先輩の声も全部無視して、俺は一心不乱に走り出していた。


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あきゅろす。
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