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ストレンジ・デイズ



「誰が、誰の、女だって?」

俺の聞き間違いでなければ、この荒木実美は山田先生、つまり俺の香月を自分の女扱いしていることになる。ここは香月の本当の恋人として、黙っている訳にはいかなかった。

「だから、山田だよ。1年A組の副担やってる、風紀部の…」

「んなもんわかってんだよ! 山田がそこの男の女だとかテキトーなこと言ってんじゃねえって話だよ」

「ああ? てめぇ誰に向かってそんな口の聞き方してんだ。お前は知らねぇだろうけど、山田が荒木さんの女にされてんのは俺らの中では有名な話なんだよ」

デフの男の言葉に驚愕のあまり開いた口がふさがらない。周りの男達も関西弁の小柄な男もうんうんと頷いていた。

「大丈夫、実美はテクニシャンやから、きっと最終的には山田先生も自分から抱いてくれって頼んできたはずや。な、実美」

「そうだな」

「口にも突っ込んだし、後ろももちろん開発済みやんな」

「当然だろ」

小柄な男と荒木のやり取りに目の前が真っ白になる。こんなのは嘘だとわかっていても、こんな奴らに香月がそういうことをしたと思われてるんだと思うと頭がおかしくなりそうだった。

「ふざけんな、そんなデマ誰が流してんだよ」

俺の言葉に荒木が綺麗な顔も台無しな悪人面で俺を睨み付けてくる。最早俺を助けてくれたのは姿形の似た別人なのではないかと本気で思い始めてきた。

「デマ? テメェ、どんな理由があって俺に難癖つけてんだよ」

「お前みてぇなクソ野郎に香月がそんなこと許すわけねーからに決まってんだろうが」

その瞬間、場の空気が凍りついたのが俺でもわかった。デフの男達ですら俺の発言に硬直していたし、小山内に至っては生まれたての子鹿みたいに足をぷるぷるさせていた。

「へぇ…お前、よっぽど死にてぇみたいだな」

あきらかにキレた荒木がゆっくりと立ちあがり、近づいてくる。しかし俺は逃げるだとか謝るだとかはいっさい考えておらず、いかにこいつをぶちのめして今の発言を撤回させるかということしか頭になかった。

だが荒木がためらいもなく俺に殴りかかろうとした時、俺と奴の間に割り込んだ奴がいた。

「やめて下さい! この人を殴らないで!」

「お、小山内…!?」

驚くことに、ビビりの小山内が俺を守るために荒木に立ち向かっていた。荒木の方も意外だったのか握りこぶしが空中で止まってしまっている。

「ごめんなさい! この人は僕が頼んでついてきてもらったんです。僕には何してもかまいません。だから、この人だけは傷つけないで下さい…っ」

「…!」

身体は震えて聞いていてかわいそうになるくらいの涙声だ。怖いはずなのに、なぜ俺なんかを身を呈してまで庇うのか。

「小山内…お前…」

「大丈夫、僕が絶対、守るから」

消えそうな声でそんなことを言う小山内に、俺は言葉もなかった。俺がこんな状況に追い込んだのに、なぜそんなことが言えるのか。俺を置いて、逃げたって誰も責めやしないのに。

「そいつの方から喧嘩ふっかけてきたんだろーが。それに、テメェにやってほしいことなんかねーんだよ」

「実美、ちょい待ち」

小柄な男が荒木を止めると、こちらに向かって笑顔を向けてくる。何か企んでいそうな嫌な顔だ。

「小山内くん、ちょっと眼鏡とって前髪上げてや」

「えっ」

眼鏡はこいつにとってけして外してはならないものだ。しかし、何でもすると言った手前外せないなどとは言えず、小山内は震える手で眼鏡を手にかけた。

「……!」

素顔を晒した小山内に奴らはどよめく。デフの連中の目の色が変わるのを見て、何がなんでも止めるべきだったと俺は後悔した。

「へー! …予想以上やな小山内くん」

「誉、お前知ってたのかよ」

「いや、知らんけど。あの夏川が自分のものにするくらいやから、素顔は可愛いんちゃうんかなーと思って。当たりやろ?」

ずかずかと近寄ってきた男は、小山内の手を掴んでまじまじと品定めするような目で見ている。まん丸の瞳が潤んでいて、まる捕獲された小動物だ。

「ほんまに何でもしてくれんの?」

「こ、この人に何もしないっていうなら」

「ふーん。何なん、お前ら付き合ってるわけ?」

小山内が思いきり首を振る。小柄な男は周りのやつらに目配せした。

「せやったら小山内くんには俺と遊んでもらおうかな。ええやろ、実美」

「いや待て、何でお前が出てくんだよ。喧嘩売られたのは俺なのに」

「お、おいあんたら何勝手に…」

小山内をめぐって喧嘩を始めた二人に俺が我慢できずに止めようとする。しかし、デフの生徒二人にあっさり腕をとられ身動きがとれなくなってしまった。

「は、離せ! はなせってば!」

「やめてください! その人に触らないで!」

小山内が俺の悲鳴を聞いてすがるような叫び声をあげる。俺は自力で逃れようとしたが男二人がかりで腕を捕まれていてはどうにもならない。

「大丈夫、小山内君がおとなしくしてくれてたらお友達には何もせーへんよ」

「ほ、ほんとに…?」

「ほんまほんま、せやからまず服を脱ごうなー」

無害そうに見えた二人は、この中で一番の畜生だった。このままでは小山内があいつらに襲われてしまう。何とか止めようと暴れるも、俺の力では何もできなかった。


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