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ストレンジ・デイズ




意気揚々と飛び出したものの、荒木実美は食堂にはいなかった。となると西館…人気のない校舎裏をたまり場にしているらしい荒木を探して、俺は小山内と共に歩き続けた。しかしデフの巣窟として有名な西館エリアに一歩踏み出した瞬間、柄の悪い数人の男達に捕まった。

「何だてめぇら、見ない顔だな。デフじゃねえだろ」

「こんなとこ歩いてたらいいカモだぜ。とっとと出ていきな」

いい奴なのか悪い奴なのか今一つわからない絡み方だが、話が通じる相手だと思ったので俺はこっそり小山内を小突いた。話せ、という合図だ。

「ぼっ、僕達は荒木実美……っ、さんに、話があってきたんで……あああもう無理! 僕怖くて耐えられない」

「あほ! 男なら気合いいれろ!」

小声で泣きついてくる小山内に同じく小声で叱咤する俺。あくまで今回はサポート役だ。小山内が統べてやらなくては意味がない。

「荒木さんに? お前らみたいなのが何の用だよ」

「ぼ、僕達は…っ」

用意していた台詞を思い出せ、と俺は再び奴を小突く。小山内なら逃げ出してもおかしくなかったが、奴には珍しく勇気を振り絞ってデフの生徒に立ち向かっていた。

「生徒会の代理として、来ましたっ。荒木実美さんに、役員としての仕事をしてもらうよう、頼みに来ました……っ」

マジで勝手にやってることだが、一応大義名分が立っている。目の前のやつらは肩をすくめて目配せしあう。

「荒木さんって生徒会だったのか?」

「いや…違うだろ。なあ?」

「一応入ってるのは入ってるみたいだけど」

「マジで?!」

「風紀委員が荒木さん見逃してんのは、生徒会特権だって聞いたことある」

「へーー! でもあの人どうせ幽霊役員だろ」

「だな。…っつーことだから、諦めて帰れお前ら」

この話は終わりとばかりに手で追い払われた俺達だったが、荒木にも会わずに帰るわけにいかない。つい口出ししそうになったが、それよりも先に俺を手で制し小山内が口を開いた。

「こ、これは最後通牒です! …荒木さんに今来ていただけないのであれば、生徒会役員をやめていただくことになります…っ」

「ああ?」

「…あなた方は、荒木先輩に確認だけでもとるべきではないですか」

「……」

奴らは不満げな顔をしながらも、携帯を手にした。小山内の別人のような態度に俺は後ろから感心しまくりだった。

「小山内、お前…」

やるじゃん、と褒めようと触れてその肩が震えていることに気づく。ビビりはそう簡単にはなおったりしないらしい。

「大丈夫か?」

「な、なんとか…」

「あんま無理すんなよ。ヤバくなったら逃げるつもりなんだからな」

こいつのためとはいえ完全に俺がそそのかしてやらせてることなので、ここまで奴が頑張って耐えているのが不思議だ。デフの連中は何やら電話で話していたが、俺達の方へ視線を向けた。

「おい! お前名前は」

「…小山内です」

「隣のやつは?」

「彼はただの付き添いなんですが…田中君です」

突然の偽名に俺は小山内の顔をみる。小宮今日子などという本名を使うわけにはいかないから仕方ないのだが。

「おい、誰だよ田中って」

「大丈夫、田中って名字は一年生に五人もいるから」

「それ大丈夫っていえるのか??」

「おい!」

小声で話し合う俺達をデフの男が呼ぶ。奴は携帯をポケットにしまい、俺達を手招きした。

「お前ら、荒木さんがお呼びだ。ついてこい」



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