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ストレンジ・デイズ



訳がわからないと困惑顔の小山内にこれまでの経緯を説明する。夏川は生徒会荒木実美の職務放棄に困っていて、力で従わせられたらきっと好意をもってくれるであろうこと。これをもし小山内がやれば夏川が見直すこと間違いなしだということを小声で説明した。

「今日子ちゃんの言いたいことはわかったよ。でも、そんな不良の人を僕が拉致できるとは思えないんだけど……」

「いや俺、実はこの荒木って奴とちょっとした知り合いでさ。この人襲われそうになってた俺を助けてくれたんだよな」

「えっ、小宮さん襲われそうになったの!? 大丈夫!?」

「そこは別に拾わなくていいから。大丈夫にしか見えねえだろ。俺が言いたいのは荒木はそんな悪い奴じゃねぇってことだよ。だから事情を話せば一緒に来てくれるかもしれねぇ」

荒木実美は俺の事を助けてくれた。まあ恐らく俺が超ハイレベルな美少女だからだろうが、それでもなんの見返りもなしに助けてくれたのだ。

「小山内、まずはお前そのダサい格好をやめろ。可愛さを全面に押し出せ。そうしたら荒木もころっと頼みを聞いてくれる」

「そ、そうかなぁ……ってダメダメ! これは家族との約束だから」

「ちっ……このチキン野郎。根性なし」

「ええっ」

この庇護欲掻き立てられる容姿なら荒木も言うことをすんなり聞いてくれるかもしれないのに融通のきかない奴だ。というかこいつはもっと自分の容姿に自信を持つべきだろう。

「そういえば、小宮さんは何でそんな格好してるの? マスクは……風邪でも引いた?」

「ちっげーよ。俺がそのままだったら目立ってしょうがねぇだろ。それに、お前じゃなくて俺の手柄になりそうだし。だからわさわざ変装してやってんじゃねぇか」

この学校では女だというだけで目立つので男装するしかなかった。香月にバレたら確実に怒られるが顔をなるべく隠してるので大丈夫だと思いたい。今日の俺はただの小山内の付き添いとして、誰にも正体を知られることなくこのミッションをクリアしてみせる。

「あの、小宮さん……ほんとにありがとう。僕なんかのために、ここまでしてくれて」

はにかみながら礼を言う小山内の顔をつまむ。変装していても今の俺にはこいつの素顔が見えるようだった。

「めっちゃ可愛い…」

「えっ」

「いや、なんでもねえ」

あまりの愛らしさについ本音をこぼしてしまう。俺には漢次郎という相手がいるのに……いや、違う違う。漢次郎じゃない、香月だ。

「拉致するっていうか、荒木先輩に頼んで生徒会の仕事をしてもらうようにするってのが今回の目的だよね」

「そうだ。あくまで"お前"がやるってことが大事だぞ。俺はただの添え物だ」

「でもいくら荒木先輩が悪い人じゃないとはいえ、見ず知らずの僕らのお願いを聞いてくれるとはおもえないんだけど」

確かにこいつの言う通り、そんなので動く相手ならとっくにトミー先輩がどうにかしてるだろう。しかし俺の中での荒木実美は美女に弱い硬派な美少年だ。不良たちにも一目おかれているようだし、なによりあの純朴そうな顔の男が危険だとは思えなかった。

「頼み込めば何とかなるかもしれねーだろ。とりあえず、無理だって思う前にやってみようぜ」

「で、でも荒木先輩って不良の中心人物なんだよね。そんな人に簡単に会いに行けるかな。それに生徒会に戻ってとか関係ない僕らが必死で頼むのって何かおかしいと思うんだけど」

「細かいことにいちいちうるせーな。生徒会役員の代理で来たって言えばいいだろ。それに、荒木実美の居場所なら見当つけられるかもしんねぇ」

「?」

俺は携帯を取り出して電話をかける。相手はデフの遊貴先輩だった。

『……もしもし?』

数秒後に先輩の狼狽した声が聞こえる。まさか俺から電話をかけてくるとは思っていなかったのだろう。

「あ、先輩。おれおれ。今ちょっといいですか」

『……いいけど、何の用だよ』

「ゆーき先輩に、荒木実美のことおしえてほしいんです。先輩デフだから詳しいかなーと思って」

『はあ?』

香月や唄子に聞いた方が奴の情報は入ってきそうだが、あいつらに話せば絶対に反対される。デフと関わるなんて絶対に許してくれない。

『お前そんなことで俺に連絡とってきたわけ? 山田先生この事知ってんのかよ』

「あいつのことはどーでもいいんです。それより荒木先輩の今いそうな場所ってわかりますか」

『お前何考えてんのか知らねぇけど、余計なことすんなよ。荒木さんがお前の事、どう思ってんのかわかってんのか』

「超絶可愛い美少女」

『間違ってはねえけど』

俺が行くなら話は早そうだが、俺ではなくやるのは小山内だ。いざというときはこのノロマを引きずってでもさっさと退散しなくてはならない。

「先輩荒木さんとこに連れてってくれないですか」

『何で俺が。荒木さんにどういう関係だって責められるだろーが』

「んー、じゃあ居場所だけおしえてください。俺この前先輩に助けてもらったんですけど、ちゃんとしたお礼ができてないんですよねー」

それが目的ではないのだが、嘘でもつかなければ教えてくれなさそうなので仕方ない。

『……荒木さんなら多分食堂か西館の校舎裏にいるぜ。お前に話しかけられたら喜ぶだろうけど、あんま期待させんなよ。あの人お前のこと女だと思ってんだからな』

「その辺は大丈夫です! ゆーき先輩の名前も出しませんのでご安心を! それでは!」

満足して電話を切った俺は不安げな顔をしていた小山内にウインクする。そのまま親指をぐっとたててうまくいったとサインを送ったが奴はひきつった笑顔を見せるだけだった。


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