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ストレンジ・デイズ



その日の夜、トミー先輩から電話がきた。奴が電話をかけてきたのはこれが初めてだり俺は少しドキドキしながら通話ボタンを押す。用件はなんとなくわかっていたが。

「はい!」

『あ、今日子ちゃんこんばんはー。いきなり電話してごめんね。いま大丈夫?』

「大丈夫です! 先輩ならいつでも大歓迎です!」

『ありがとー。会ったときでも良かったんだけど、夏に聞かれたりしたら困るかなと思って。夏に好みのタイプ聞いてきたよ!』

先輩は有言実行だった。そしてちゃんと話したのか、あの男は。

「あの人から聞き出すってすごいですね、先輩」

『いや、それがすごいはぐらかされたというか……事実ではあるんだろうけど』

「?」

『夏いわく好みのタイプは、荒木実美を引きずって平伏させて生徒会の仕事を強制的にさせられるような人、だって』

「……は? 荒木って誰」

物凄く物騒な台詞に敬語も忘れて尋ねる俺。ただ荒木っていうのはどこかで聞いたことのある名前だ。たしかそいつは……。

『荒木くんはうちの生徒会の会計なんだけど、ずーっと仕事サボってるんだよね。おかげでただでさえ少ない人数でまわしてる仕事が滞っちゃって。夏は無理矢理連れてこさせようとしたこともあるんだけど、彼見た目に反して狂暴だから全然歯が立たなかったんだ』

「そんなやつさっさと罷免すればいいのでは?」

『それが彼、見た目がいいもんだからすっごい人気で。ほら、うちの生徒会って人気投票で決まるから、そう簡単に鞍替えできないんだよね。仕事の方は補佐が手伝ってくれるからなんとかまわせてるんだけど、校外活動も不参加じゃ夏のイライラがたまっちゃって』

「はあ」

『夏はテキトーに言ったことだと思うけど、正直、あの荒木くんに生徒会の仕事をさせられるような強い子だったら、夏も即刻好きになると思うよ』

「な、なんと」

それは恋の好きとはだいぶ違う気もするが、強いという言葉に俺は反応した。強くなりたいと言った小山内の言葉がよみがえる。夏川の好みが強い奴だというのを、あいつはわかって言っていたのだろうか。

『夏に片想いしてるのが男子か女子かは知らないけど、プロレスラーみたいな子だったらいいなぁ』

本当に夏川の親友なのかと疑いたくなるような発言だ。完全にトミー先輩の希望が含まれている。

『あ、こんなこと言っといてあれだけど、荒木くんは本気で凶悪な危険人物だから! 夏でも勝てないんだからね。普通の人、今日子ちゃんとかは絶対近づいちゃ駄目だよ!』

「先輩、そんなことわかってますよ〜。今日子はか弱い女子なんで!」

先輩に今さらなぶりっ子を披露しながら、俺はいま得た情報をなんとか使えないかと思案していた。見た目がいい荒木という男には心当たりがある。前に俺を助けてくれた、美形で照れ屋な好青年だ。狂暴そうには見えなかったが、ああ見えて不良達には一目置かれているようだし、喧嘩が強くてもおかしくはない。

トミー先輩との通話を終えた俺は、その後眠りにつくまでずっと考えていた。そして考えのまとまった俺は忘れないうちにと、朝起きてすぐ小山内を呼び出した。






小山内を呼びつけたのは寮の談話室。俺よりずっと前に来ていたらしいヤツはは部屋のはじっこの方で立ちながらきょろきょろしていた。俺を探しているらしいがまだ見つけられていない。当然だ、俺はいま変装しているのだから。


「よう、小山内」

「小宮さん、話っていったい……って誰!?」

奴の口を咄嗟にふさぎ、静かにするように指示する。そう、いまの俺は男子生徒の姿、それもマスクをして前髪で目を隠すというプチ不審者だった。

「しーっ、俺だよ。小宮今日子」

「えっ。嘘、なに、何その格好」

「変装だよ、変装」

「はい?」

なぜ変装などしているのか、という質問が来る前に人気のないところまで小山内を引っ張る。唖然とする小山内を前に俺は笑顔でこう言った。

「今から荒木実美を、拉致するぞ」


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