ストレンジ・デイズ
□強さのあかし
次の日、やることもなかった俺は小山内に会いに行くことにした。本人から聞いてるかもしれないが、夏川が転校せずにすんだことを伝えてやろうと思ったのだ。奴の電話番号をきいていたので寮の外まで呼び出そうと思っていたが、昼に食堂で偶然奴と鉢合わせたのでその必要がなくなった。
「よう、小山内」
「こ、小宮さん!」
俺は相変わらず一人で昼食を食べていた小山内の前に座る。俺の方も唄子が昨日の話を聞きたがって鬱陶しかったので今日は一人飯だ。
「ど、どうしたの?」
「お前に良い話をしてやろうと思ってな。夏川から聞いたんだけど、あいつアメリカ行きの話なくなったらしいぜ。この学校に残るってさ」
「あ……そうなんだ」
眼鏡の前髪で表情がわかりづらいからかもしれないが、あまり喜んでいるように見えない。もっと良い反応を期待していた俺は内心がっかりしていた。
「何だよもっと喜べよ。俺だって一役買ってんのにさ」
「喜んでるよ……!」
「そうかぁ? そんな風に見えねぇんだもん。もしかしてお前、あんまりやる気ねぇの?」
「え」
「だから、俺のやってることが迷惑なら、もう手伝ったりしない方がいいのかと思ってさ」
「そんなことない! すっごくすっごく助かってるよ!」
奴には珍しく大きな声で否定するので、一応やる気はあるらしかった。大声を出してしまったことが恥ずかしかったのかさらに小さく縮こまってしまう。
「ならいーけど。てかなんでずっと俯いてんだよ」
「こっ、小宮さんといると緊張しちゃって……ごめん」
「あー……」
自分は慣れきっているので気にもしてないが、俺は目立つ存在だ。なぜなら絶世の美女だから。この学校で間違いなく一番だし、そんな女と目立たない小山内が一緒にいれば嫌でも周りの生徒の注目をあびていた。
「小宮さんは、どうして僕なんかにここまでしてくれるの?」
「えっ」
顔が可愛いからなんとなく面倒をみたくなってしまうとは言えず、明後日の方向を見る。感覚的に言えば弟みたいな感じだ。
「んー、なんかほっとけないタイプだから」
「……」
照れているのか恥じているのかわからない顔でさらにうつむいてしまう小山内。特にフォローはせずむしゃむしゃカツ丼を食べていた俺の前を、何やら黒いものが通った。
「あっ、今日子ちゃんだ」
「ト、トミー先輩!……ですよね?」
あまりに日焼けしすぎてすぐには本人と気づけない。大量の食事をトレーにのせ重そうに運んでいる。
「一人? あ、友達と食べてるんだね」
「はい」
夏休み前はいつも一緒に食べていたのでなんとなく後ろめたい。このままトミー先輩に引っ付いていくべきか迷っていると、先輩が俺の横に座った。
「僕も一緒に食べてもいいかな」
「えっ、でも……」
「今日はすいてるから、生徒会専用の席に座らなくても大丈夫だし。小山内くんもいい?」
小さく頷く小山内に、人懐こい笑顔を見せてパクパク食べ始めるトミー先輩。この人、小山内の名前知ってるのか。夏川と仲良いし、もしかして従兄弟ということも知ってるのかもしれない。
「先輩、今日は会長は……」
「夏? さあ、いっつも一緒に食べてる訳じゃないから。夏に会いたいの?」
「いやいや、そんなわけないじゃないっすか」
こんなところで鉢合わせたら気不味い以外のなにものでもない。別に俺が奴と何かあったというほどのことでもないが、何となく今は話したくなかった。
「先輩って夏川と仲良いですよね」
「うん、わりと」
「じゃああの人の好みのタイプとか知ってますか」
小山内が小さく息をのんでこちらにすがるような視線を向けてくる。やめてくれ、と目が訴えてきたが俺は知らんぷりしていた。
「夏の好きなタイプ……!? なんでそんなこときくの?」
「いや俺は別に興味ないんすけど! 俺の知り合いで夏川の事が好きな奴がいて」
小山内がぶっ倒れそうな顔をしていたのでさすがに心配になってきた。お前の名前は出さないから安心しろという視線を送ってやる。
「好きなタイプかー……。よく一緒にいるし美作くんとかじゃないかなぁ」
「いや、それはない」
「そう?」
美作に怯える夏川の姿を思いだしすぐさま否定する。トミー先輩は夏川に詳しいのか詳しくないのかよくわからない。
「夏とそういう話全然しないからなぁ。今度会ったときにそれとなく聞いてみるよ」
「えっ、いや、そこまでしてもらう必要は」
「大丈夫。今日子ちゃんの名前は出さないし、さりげなーくきくからさ。僕にどーんと任せてよ」
「不安しかない」
「え、いま何て?」
「頼りにしてます、トミー先輩!」
さりげなくとかそれとなくとか、そういうことがこの人にできるとは思えないが本人がやる気になってくれていたので、任せることにした。
その後、小山内は会話に入ってくることもなく食べ終わるとさっさと食堂を出ていってしまったので、俺は先輩とハワイの話でずっと盛り上がっていた。
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