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ストレンジ・デイズ



「とりあえず、お前も小山内こと心配してるってことだよな。やっぱり何だかんだで可愛いもんな、あいつ」

はたして小山内は脈アリなのかナシなのか知りたくてそんなことを言ってみる。しかし夏川の反応はなんともいえない微妙なものだった。

「まぁ……一応身内だしな。俺のせいで再起不能になったら親にも申し訳ねぇだろ。唯一の取り柄の顔に傷なんかついたら可哀相だし」

「ゆ、唯一ってお前…。まあ確かに中身はちょっとうじうじしすぎてイラつくけど」

「だよなぁ? お前そのうじうじが可愛いとか思われんのは女子だけだからな!ってなるわ〜」

「なるなるー! 男ならもうちょっと自己主張してこいよってなるー……ってそうじゃない、そうじゃないぞ俺」

小山内を応援するといっておきながら夏川とアイツの悪口で盛り上がってどうする。これ以上俺は余計なことを言わない方がいい気がしてきた。

「お前、ずいぶん小山内と仲良くなってるみてぇだけど、まさか男だってことバラしてねぇよな」

「はあ? んなわけねーじゃん。このことはお前と……一部の人間しか知らねぇよ」

遊貴先輩は特殊な例だし、一目見てバレてしまったのは夏川だけだ。もしかするとこいつ、物凄い観察眼の持ち主なんじゃないだろうか。

「一部ってあの教師か。てかあいつ結構ウザいんだけどお前の何なの? SPか何か?」

「うん、まあ…そんな感じ」

本当は恋人なわけだが、香月が俺の護衛兼お世話係だというのに変わりはない。今は護衛にしてはちょっと頼りない感じだが、本当は結構タフな男だ。

「この学校に性別偽って入れるくらいなんだから、お前すげぇコネ持ってんだろうな。阿佐ヶ丘さんも協力者なんだろ?」

「えっ、なぜそれを……」

「だってあの子理事長の孫じゃん」

「何で知ってんの!?」

「…うーん、生徒会長だから?」

「それ理由になんねーだろ」

「会長になるためには色々知っておかないと駄目なこともあるんだよ。お前にはわかんねぇだろうけど。てかお前と同室で暮らしてる時点でただ者じゃないのはわかるし」

確かに生活を共にしながら性別を隠すのは難しいし、バレれば確実に逮捕される。しかしこいつの口ぶりから察するに俺の事を知る前から唄子のことは知っていたのだろう。

「つーかさっきから俺のことお前お前って、ちゃんと名前で呼べよバ会長」

「お前だって俺の事名前なんかで呼ばねーじゃん。てか本名何だったっけ? キョウシロウ?」

「響介! 真宮響介! 一回おしえただろっ……ってそーじゃなくて、小宮さんとか距離とった呼び方あるだろ」

別に本名で呼ばれたいわけじゃない。ただ会うたびお前だの貧乳だの呼ばれるのは我慢ならない。

「小宮今日子で本名が真宮響介? そんな単純な偽名じゃ、お前を狙ってる悪の組織に居場所が知られるんじゃねぇの?」

「何でちょっと半笑いで言うんだよ」

そういえばこいつには悪い奴らから身を隠すために女装して入学していると言っていたか。いちいち設定を覚えてなきゃいけないのが面倒だ。

「だいたいこの偽名は俺がつけたんじゃない。父親が小〇悦子と小泉今〇子のファンだから勝手につけてきた名前で、本名からもじったわけじゃねーから!」

名前は俺の意見など求められず気がついたら勝手に祐司に決められた。そのくせ香月の偽名は決めてくれなんて、普通逆だろと入学前に祐司にグチグチ言っていたのを覚えている。

「まあそんなキレんなよ。あまりに単純すぎるからツッコミたくなって」

「お前なんか夏川夏なんて単純にも程があるじゃねーか! どんな親だよ!」

言ってしまってから、しまったと思った。あのアメリカ人の美女は義理の母なのだから、本当の母親がいるはずだ。奴の名前は、その母親がつけたものなのかもしれない。おれがそう思ったのは、夏川の表情が固まったからだ。

「いや、あの今のは……」

気まずい。こいつの母親がいないのは何かしらの事情があるからだ。もしかして俺はこいつの地雷を踏んでしまったのではないだろうか?

「ははははっ」

「!?」

突然笑いだした夏川に俺の肩がビクっと跳ねる。ついに頭がおかしくなったのかと心配する俺に、奴は笑いつづけた。

「あ、わりー、わりー。俺の名前が決まるまでの経緯思いだしちゃって」

「お、おお……」

「お察しの通り、この名前はうちの母親がつけたんだよ。俺を産んだ、今はもういない本当の母親がさ」

「いないってのは…?」

「俺を産んだときに死んじゃったから。だから全部父親から聞いた話なんだけど」

奴の産みの親が死んでしまっていたことよりも、それをさらっと言う夏川に驚いた。しかしもし早くに母親を亡くしているなら、夏川にとって母親はいないのが普通なのかもしれない。俺だって妹や香月がいなくなったら想像もつかないくらい嘆くのだろうが、ろくに家にいない乙香が消えたところで悲しむのか果たして疑問だ。

「お前……じゃねえや。響介って意外と気ぃつかってくるんだな。このままじゃ誤解されそーだし、今から言う話を最後まで聞けいとけよ」


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