ストレンジ・デイズ □ 「か、会長……!」 そこに立っていたのはこの女子寮にいてはいけないはずの生徒会長、夏川夏だった。制服ではない私服の奴は新鮮で別人のようだったが、このいけすかない面は間違いようがない。 「な、何で夏川様がここに?!」 「こんばんは、阿佐ヶ丘さん。安心して下さい。ちゃんと許可をもらってきてるから」 「まあ……」 唄子に向かってウインクするキザな夏川。正直いつもの俺様キャラとは違っていてかなり気持ち悪い。というか誰がこいつに女子寮への入室許可なんか出したのか。生徒会長だからといって特別扱いしすぎじゃないのか。 「それはそうと、奥にいる男はいったい……?」 「あ、あれはキョウちゃんです」 「おい! お前何バラしてんだ!」 「え……だって夏川様に嘘をつくなんて、あたしにはとてもできない……!」 「ふざけんなー!」 花も何もないどこにでもいそうな男の顔に戻った俺を見て、夏川はかなり驚いていた。信じられないといった表情でこちらを凝視している。 「夏川様はいったいどうしてこんなところに? キョウちゃんは今……あの通りですけど」 「大丈夫、事情はわかってる。俺は小宮さんと話がしたくてきたんだ。学校じゃなかなか二人きりになれないから」 「そうだったんですか〜。どうぞあがってください、私は出ていきますので」 「唄子!?」 この状況で二人きりにする気かと慌てて呼び止めたが、奴は逃げるように部屋を飛び出していってしまった。普段足が遅いくせにこういう時だけ機敏に動けるのは何故なのか。というか、こんな危険人物と俺を二人きりにしていいと思ってんのか。 「この裏切り者ー!」 「……お前、ほんとに小宮今日子なのか?」 「そーだよ悪いかこの野郎」 「…ずいっぶんと地味な顔だなぁ」 「うるせー! 何しにきたんだよお前! あ、おい勝手に入んな」 ずがずかと俺の部屋に上がり込んでくる夏川。俺の部屋を隅々まで見渡して、俺の椅子に断りもなく座った。 「せっまい部屋だな」 「さっきから何なんだよテメー! 用がないならさっさと帰れ!」 「用ならあるっての。今日は礼を言いに来たんだ」 「礼……?」 なんのことだと考えてみたがまったく思い付かない。顔をしかめる俺に夏川は偉そうにふんぞり返りながら笑った。まったくもって礼を言いに来た態度ではない。 「うちの母親、お前のこと俺の恋人だと思い込んでただろ。俺が日本に残りたがってるのはお前がいるからだってうまいこと誤解してくれて、ここに残れることになったんだよ。恋人がいるなら仕方ないってさ。だからそのお礼」 「え……マジで?」 まさか俺のおかげで、奴がここに残ることになってしまうなんて。良かったのか悪かったのか、俺は微妙な顔をするしかなかった。 「お礼っていう割には何も持ってなくね? 金?」 「アホか、俺自身が礼に決まってんだろ」 「ひぇぇ、きめーから近寄んじゃねぇ」 キメ顔で俺の顎に触ろうとしてくる奴の手を一瞬で振り払う。こいつもよく美少女でもない俺に冗談でもそんな事を言う気になれるものだ。 「お前、うまくやってるみてぇじゃん。男が女装して入学なんてどうせすぐボロが出ると思ったけど。まあそれもこれも俺が黙っててやったおかげだけどな」 「てめぇ俺に恩売りに来たのか礼を言いにきたのかどっちなんだよ」 ナルシスト夏川は女なら卒倒しそうな笑顔を俺に向けてくるが、こちとら男に興味はないので何とも思わない。いや、香月と付き合ってるのだから興味ないというわけではないのか。 「つか、俺に感謝してるなら俺の質問に答えろよ。前から聞きたかったことがあるんだ」 「お、やっと素直になったか。ちなみに今、特定の相手はいないぜ」 「聞いてねーー。俺が知りたいのは、小山内のことだよ」 従兄弟の名前を出した途端、奴の顔色が変わる。俺はそんなことは気にとめず単刀直入に尋ねた。 「お前、なんであいつにあんなに冷たくするわけ? お前のせいであいつ、すげー精神的にまいってんだぜ。しかも奴に聞いたらこの学校に来るまでは普通だったらしいし。従兄弟だってんならもっと優しくしてやれよ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |