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ストレンジ・デイズ
□夜の訪問者




「おい! 止まれ、止まれってば!」

俺の腕を掴んだまま小走りで廊下を駆け抜ける小山内。俺は平気だが小山内は息も絶え絶えだった。

「何だよいきなり走り出して。まあおかげで助かったけども」

「う、うん。ごめん」

「手」

「えっ」

「いつまで掴んでるんだよ」

ぐっと握り締められた手首がそろそろ痛い。俺が指摘すると奴は大慌てで手を離し後ずさった。

「わああ! ごめん!」

「……いや、そこまで謝らなくてもいいけど」

「う、うん。ごめん」

いくら俺が美少女だとはいえ、夏川が好きなくせに顔が真っ赤だ。こんなにわかりやく純情でこいつはこの先大丈夫なのかと心配になってしまう。夏川なんかにやるのは危険すぎる気もしてきた。

「俺はこのまま逃げられるとしても、お前はこれからもあの母親と会う機会あるだろーし。何か悪いな」

「それは……大丈夫だよ」

「そうか? まあ俺も変な勘違いされたままは困るし、聞かれたらちゃんと否定しといてくれよなー。俺はあなたの息子さんとは何の関係もありませんって」

「うん、わかった」

こうなってしまったのはだいたい俺のせいであるわけだが、小山内は気が弱いせいなのか特に俺を責めたりしてこない。こいつのために夏川に会いに行ったはずなのに奴にキレられただけで終わってしまった。

「お前、夏川を諦める気ないんだろ」

「へ? あ、えっと……うん」

あんなイメージが崩壊しかねない妹にデレデレの姿を見ても気持ちが変わらないなんて、小山内は男の中の男だ。先程は格好よくなりたいなどと言っていたし、こいつは元々夏川を格好いいという目では見てないのかもしれない。

「よし、だったら協力してやるよ。あいつがアメリカ行っちまうんだったら、ここで奴と和解しとかねーとな」

「いや、だからアメリカ行くって決まった訳じゃ……」

「たとえ付き合えなくても、喧嘩したままってのはつらいだろ。俺も一緒に方法考えてやるから、これから頑張ろーぜ」

「あ……うん……そう、だね。ありがとう、小宮さん」

当初の目的である男同士はどうやって付き合うのかという問題は二の次になっていたが、俺は夏川と小山内を和解させることができれば、なんとなく負けっぱなしだった夏川に一矢報いることができるような気がしていた。そんな俺の思惑など知らず、小山内は俺の申し出を快く受け入れていた。






「と、いうわけで、俺は小山内と夏川を仲直りさせることにしました」

その日の夜、唄子にあれからどうなったのかしつこく聞かれたため、俺はトミーからもらったパンケーキを食べながら説明した。唄子は小山内が夏川の事を好きだったことに驚いていたが、なぜかあまり興味もないらしくしつこく聞いてきたりはしなかった。

「キョウちゃんにしては珍しくいいことやってるじゃない。それならあたしも応援するわよ」

「珍しくは余計だろ。てかお前、夏川がアメリカ行くって話は知ってたのか?」

「一応ね。でもそれって夏川会長がすぐ断ってなかったことになったんじゃなかったっけ? あたしはそう思ってたけど」

「いやいや、あの母親の押しの強さ知らねーからそんなこと言えんだよ。あいつもあんまり逆らえないみたいだし、こりゃアメリカ行くんじゃねえかな」

「えーー! そんなの困るし。キョウちゃんとめてよ」

「俺にそんな力ねぇから。ほら、お前も食えよ」

「ありがとー!」

俺がパンケーキを差し出すと唄子が笑顔で飛び付いてきた。俺が半分残していたものをあっという間に食べてしまう。

「もう一袋はトミー先輩にあげる分だから勝手に食べるなよ」

「さすがにそんなことしないってば! ……って、あら?」

扉がノックされる音が聞こえて、唄子が立ち上がる。俺はもうメイクを落としていたが、この時間ならば香月だろうと思い特に焦ることもなかった。しかし扉を開ける音とほぼ同時に唄子の悲鳴が聞こえて、慌てて駆けつけた俺の前に思いもよらぬ人物が立っていた。


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