ストレンジ・デイズ
□
「……」
「……」
妹をソファーに座らせて、そのまま自分も腰を下ろし項垂れる夏川。しばらく誰も何も言えなかったが、俺が先陣きって話しかけた。
「何か……悪かったな。こんな場面に居合わせちまって。まぁそんなに落ち込むなよ。俺も妹は好きだし」
「……」
「そうだよなっちゃん、可愛い妹を前にしたら誰だってああなっちゃうよ」
「うるせー! てめぇは黙ってろ!」
「ひっ」
従兄弟には強気な夏川も受けたダメージが深すぎてすぐに項垂れてため息をつく。よほど先程の光景を見られたことがショックだったらしい。
「馬鹿にしてくれた方が何倍もマシなんだよ! だいたいなっちゃんとか気安く呼んでんじゃねぇ」
「小宮さんに知られちゃったんだ。僕となっちゃんが従兄弟だって」
「はああ?! 何やってんだこの間抜け」
夏川にギロリと睨み付けられビビる小山内。最早奴の気を引くだとか、好きなタイプを訊ける状況じゃない。
「まあまあ、そんなピリピリするなよな。お前は全然まともだって。妹ってのは基本的に可愛いし目にいれても痛くないし何なら一生いれていたい存在なんだから。それに小山内が従兄弟だってのも、躍起になって隠すことじゃねーだろ」
「隠すことなんだよ! お前は何もわかってねーんだ。とにかく、俺らの関係は絶対誰にも言うなよ!」
「……」
お願いする立場のクセに偉そうに命令してくる夏川にカチンときたものの、小山内がすがるような視線を向けてきたので仕方なく頷く。
「ってかそれよりお前ってハーフだったんだな。全然わかんなかったぜ」
「俺のどこがハーフなんだよ、あの人は継母。親父が再婚したからな」
「え?! そーなの?」
「ああ、だから余計に俺をアメリカに連れていこうとしてんだよ。本当の家族じゃないから気ぃ使ってんの。カンナとも半分しか血が繋がってねぇし」
そう言って夏川は再び妹を膝にのせる。そしてそれと同時に部屋の扉が開いて母親が戻ってきてしまった。
「ナツ、ごめんなさい〜……ってあら?」
部屋に何故かいる俺と小山内に母親は首を傾げる。彼女とばっちり目があって、そのまま逸らす機会を失ってしまう。改めてみると夏川の母親にしては若すぎるし、まったく似ていない。
「あなた、だあれ?」
じろじろと見すぎて失礼だったかと思ったが、相手も俺の全身をくまなくチェックするように凝視してくる。外国人の顔は鬼頭で慣れていると思ったが本物はやっぱり違った。義理とはいえ夏川の母親だとわかっているのに美女に見つめられて心拍数が上がっていくのがわかった。
「cute girl……!」
「えっ」
「あなた名前は?」
「……小宮、今日子です」
夏川母に手を握られたじたじの俺。後退りすると彼女はぎゅっと手を握って笑顔を向けていた。
「キョーコ! あなたもしかしてナツの恋人?」
「え!? 違う違う! ノー! ノーサンキュー!」
「あらちがうの…? 残念……」
「今は違うけど、いずれそうなる予定だぜ」
夏川のとんでもない発言に俺は目を向く。しかし否定する前にがっかりしていた母親の表情に花が咲いた。
「やっぱり! さすがナツね、こんなに可愛い女の子を恋人にするなんて!」
「まあな。共学になったのに女の一人もいねえなんて有り得ねぇだろ」
「ナツってば、お父さんに益々似てきて……って、あら? アナタ…」
ようやく夏川母が小山内の存在に気づく。小山内は泣きそうな顔のまま頭を下げた。
「確かキミくんよね? アナタまでどうしてここに……」
「邪魔をしてしまってすみません!……僕達っ、もう出ていきますので!」
「え」
「失礼しました!」
小山内は突然俺の腕をつかんで逃げるように部屋から出る。夏川母には妙な誤解をされたままだったが、俺もここにいた言い訳をせずに済むので奴に便乗して部屋から飛び出した。
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