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ストレンジ・デイズ




「俺も家族とは離れたくありません。でも、生徒会長としての仕事を途中で投げ出すこともできません」

夏川らしからぬ真面目な発言に俺は思わず息をとめて耳をすませる。小山内の方も深刻な顔つきになっていた。

「なので俺はここに……」

「ナツ! そんなこと、アナタは気にしなくていいんです。まだコドモなんだから、わたしと一緒にきましょう。ねっ、そうしましょう」

母親の方は認めないとばかりに夏川の腕を掴む。アメリカ人らしい母親は夏川をなんとしても連れて帰りたいようだ。一人で世界中を飛び回ってるうちの乙香とは大違いだ。

「ナツ! どうしてうんって言わないの? 私たちと離ればなれになっていいっていうのですか?」

「まあまあお母さん、落ち着いて」

「アナタはだまってください!」

母親がヒステリックに叫ぶので俺と小山内が一緒になってビビる。なぜか二人して自分が怒られているような気分になっていたが、遠目からでも校長の方も硬直して恐れおののいているのがわかった。

「………そ、そういえばお茶がまだでしたね。すぐに用意してまいりますので、暫くお待ちください」

校長がそう言って逃げるように部屋から出ていってしまう。勢いのあまり立ち上がっていた母親はふーと息を吐きながら息子を見下ろした。

「お父さんはどちらでもいいといってますけど、私は親と子がはなれるべきではないと思います。夏、いっしょにアメリカに来なさい」

「……」

あの偉そうで俺様な夏川でも母親には逆らわないらしく、何も言い返さず妹をただ抱き締めていた。その瞬間、母親の携帯の着信が鳴った。

「……ごめんなさい。少し外に出ます。ナツ、カンナをみていてね」

「ああ」

そう言って母親は携帯の相手と英語で喋りながら足早に外に出ていく。部屋には夏川とその妹が残された。

「あー、まーまぁ」

母親がいなくなったことで妹がぐすり始めたので、夏川は妹を抱き抱えたまま立ちあがり室内を歩き始める。奴がこちらに近づいてきたので俺と小山内は大慌てだった。

「や、やべぇドア閉めなきゃ」

「駄目だよ、いま動いたら」

小山内に身体を押さえつけられ俺はそのままの体勢で制止する。密着して奴の心臓が爆発しそうなくらい激しく動いているのがわかった。どんだけビビってんだこいつは、と思ったか普段の夏川からの扱いを見てると仕方ないとも思える。

ちょうど俺の視界の真ん中で夏川が立ち止まり、ぐずり始める妹をあやしていた。妹は夏川と違い金髪でまさにハーフといった容姿をしている。妹を抱く夏川の手がおぼつかないので落としたりしないだろうかヒヤヒヤしていると、奴は妹に鼻をすりつけて聞いたこともないような声を出した。

「よしよしカンナちゃ〜ん。お兄ちゃんでちゅよー。ママはすぐ帰ってきますからね。それまでお兄ちゃんと一緒にいい子で待ってまちょうね〜」

聞いたこともないようなデレデレの声で妹に話しかけ、ほっぺたに熱いキスをする夏川。俺はいま見たものがあまりにも信じられず、その場で派手な音をたててずっこけた。

「……」

「……」

反動で倒れ込むようにクローゼットから出てしまい、妹を抱いていた夏川と目があう。しかし俺は隠れていた言い訳よりも先に飛び出てきた言葉があった。

「いやお前誰だよ!!」

俺に全力で突っ込まれて、硬直していた夏川の顔がみるみるうちに赤くなっていく。さすがの夏川も痴態を見られたことに愕然としている。

「な……な……何でお前……」

「ごめんなっちゃん! 盗み聞きする気はなかったんだけど何故かこんなことに……ほんとごめんなさい僕が全部悪いんです〜〜!」

「小山内!?」

涙ながらに土下座する小山内に今まで見たこともないような顔で項垂れる夏川。誰も何も言えず、夏川の妹の不機嫌そうなぐずる声だけが部屋に響いていた。


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