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ストレンジ・デイズ




「鍵を開けといたので、この部屋使ってください」

久しぶりに聞く夏川の声は、普段よりも大人びているように聞こえた。それと共に数人の足音も聞こえてくる。俺はいったい何が始まるのかと暗闇の中で耳をそばだてていた。

「小宮さん…! 近いしせまい……!」

「うるせぇ我慢しろ、聞こえねーだろ」

ギリギリのスペースで隠れている俺達は無闇に動けない。俺は物音をたてないように細心の注意を払いながら神経を研ぎ澄ましていた。

「失礼します」

「どうぞ、お掛けください」

知らない大人二人の声もする。一人は年配の男、もう一人は若い女の声だ。

「この声、なっちゃんのお母さんだ」

「えっ、マジ!?」

一緒に隠れていた小山内の言葉に盛大に食い付く俺。俺は奴の肩を掴み小声ではしゃいでいた。

「すげー! あいつ母親とかいたんだ」

「そりゃいるよ。もう一人は多分校長先生だと思うけど……」

「ってことはやっぱ例のアメリカ行きの件か?」

興味津々の俺は音をたてないように扉を少しだけ開ける。聞き取りづらかった声が途端にクリアになる。

「小宮さん何やってんの! バレちゃうよ!」

「大丈夫だって、ちょっとだけだから」

うるさい小山内を無視して俺は会長達の会話を聞いていた。小山内もこれ以上止めようとしてもバレるリスクが高くなるだけだと判断してか大人しくなった。

「夏川さん、電話でも言った通り息子さんをこの時期に転校させるのは賛成できません。何より彼はここの生徒会長です。この学校にはなくてはならない存在です」

「校長先生、そうは言いますケド、親子である以上離ればなれになるのはダメだと思います」

校長の言葉に妙な発音で返す夏川母。なんというか、片言だ。

「夏川の母親、何か話し方おかしくねぇ?」

「そりゃそうだよ、アメリカ人なんだから。日本語上手な人だよ」

「マジ!? 母親外国人!?」

「しーっ!」

衝撃的事実に俺は隠れていることも忘れて派手に驚く。だからアメリカに行くとかいう話になってるのか。

「まさか夏川がハーフだったなんて、気づかなかった」

「いや、なっちゃんは……」

「待て、何か話してるぞ」

小山内の口を塞ぎ、もう外に出そうな勢いで耳を扉の隙間に引っ付けた。

「しかし失礼ながら今も一緒に暮らしているわけでは……」

「近くに住むのと、外国に住むのとではすごく違います! なにかあっても、すぐに来てあげられないじゃないデスか。そうよネ、カンナちゃんもそう思うでしょ?」

「うーー」

突然出てきたカンナちゃんという名前にこの部屋にもう一人いる事を知った。おそらくはそのカンナちゃんらしき声もしたが、完全に小さな子供の声だ。

「何かすげーちっさい子の声したんだけど……」

「カンナちゃんはなっちゃんの妹だよ」

「嘘だろ? あいつそんな小さい妹いんのかよ! 見たい!」

衝撃の事実の連続に驚くのに忙しくなってきた。好奇心を抑えられなくなった俺は扉をさらにもう少し開いて外を覗こうとした。

「小宮さん! さすがにバレる、それはバレるよ!」

「ちょっと見るくらいいいだろ、お前こそ静かにしてろ」

ちょうど俺の狭い視界でも捉えられるところに母親が座っていたので、目を凝らせばその姿は見てとれた。夏川の横に金髪の美女が座っていて、その膝の上には人形のような可愛らしい小さい子供が鎮座している。

「若っ! 夏川の母親若いな〜。うちの若作り年増とは違うぞ」

「小宮さんお願い、もうやめようよ」

小山内が泣いている気もするが暗がりなのでよくわからない。俺の方はといえばこちらには従兄弟がいるのだから見つかった場合も何とか許されるだろうと思い始めていた。

「お母さん、一番大事なのは息子さんの気持ちです。夏川くん、君はどうしたいのかな」

校長の言葉に夏川は黙りこんでしまう。兄に手を伸ばして服を引っ張っていた妹を優しく抱き上げ、夏川は口を開いた。


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