ストレンジ・デイズ
□生徒会長、夏川夏
「で、お前は具体的にどう強くなりたいんだ」
「え」
「片手でリンゴでも潰せるようになりたいのか? それとも単純に喧嘩が強くなりたいのか」
「……」
強くなりたい、ではアバウトすぎるので具体的な目標を決めたい。俺もいつまでこいつを鍛えられるかわからないし、何を目指すのかくらいわかっていた方がいいだろう。
「喧嘩が強かったら、何かあったとき守れるけど。本人が強かったら僕の出る幕ないかもしれない…よね…」
「まあ、そうだな」
「僕は格好いいって思われたいんだ。顔はこんなだけど、強かったら格好いいって思ってくれるんじゃないかと思って……」
「格好いい?」
話せば話すほど小山内の元々持つイメージからかけ離れていく。格好いい〜などと言って小山内を見つめる会長などとても想像できない。
「どんな強さがあれば、格好良いって思ってくれるかな」
「う、うーん」
夏川は自分が一番格好良いと信じてるようなナルシストだ。おいそれと他人をそんな風に思ったりしないだろう。
今さらではあるが、俺は夏川の事をよく知らない。そんな俺が奴の思考回路などわかるわけがなかった。
「よし、考えても仕方ねえから本人に直接訊こう!」
「……え!? そ、そんなことできないよ」
「何でだよ。せっかく強くなってもあの野郎の好みのタイプじゃなかったら意味ないだろ」
「それはそうだけど……。なっちゃんに絶対何でそんなこと訊くんだって思うよ」
「そこはホラ、俺がうまいこと誤魔化してやるから」
完全にノープランだが、頭のよくない自分があれこれと考えたところでどうせうまくいきっこないのだ。だったらシンプルなやり方でやるしかない。
「じゃあさっそく夏川に会いに行こうぜ。大丈夫、お前の気持ちがバレるようなヘマはしねぇよ」
「従兄弟だってのがバレた時点で僕もうヤバいんだけど……」
「大丈夫だって! 俺に全部任せとけって。お前いま夏川がどこにいるか知ってるか」
「え、え〜と今はちょっと…。多分忙しいんじゃないかな」
歯切れの悪い小山内に俺は身を乗り出して奴の胸ぐらを掴みあげる。ひっ、と小さく声を漏らした小山内に俺は男丸出しの声色で脅した。
「何であいつが忙しいんだよ。何か知ってるならハッキリ言え、あ? 俺は回りくどいのが一番嫌いなんだ」
「は、はいっ。なっちゃんは多分いま、お母さんと一緒にいるかと思われるので、忙しいのではないかと」
「は? あいつの母親がいんの? 何で?」
「それはなっちゃんの両親がこの度アメリカに住むことになりまして、息子を連れていくかどうかの話し合いを学校とするためです」
「アメリカ!?」
「ひいっ」
小山内の言葉に俺は今日一番驚いた。俺の大声に奴は可哀想なくらいビビっていた。
「あいつアメリカ行くのか?」
「いや、それはまだ……。両親は来てほしいみたいなんだけど、なっちゃんは嫌がってるってうちのマ……お母さんが言ってた。あ、これはまだ極秘事項だから、絶対誰にも言わないでね!」
「マジか……」
あいつがこの学校からいなくなる。俺にとっては願ってもないとだが、なんとなく気に入らない。だってこのまま奴に消えられては、結局俺の負けで終わりになってしまうだからだ。それに奴はここの生徒会長だし、どうせ今も寮に入っていて家になど帰っていないのだからアメリカになど行く必要もないだろう。
「てかお前どーすんだよ、このままアイツがアメリカ行ったら、告白できねーじゃん」
「まだ行くって決まったわけじゃないけど……そうだね」
せっかく奴の恋を成就させてやろうと思ったのに、このままでは時間切れだ。ゆっくりじっくり攻めている場合ではない。
「よし、こうなったらアイツが転校する前に勝負決めるぞ! 立て小山内! 夏川んとこ案内しろ!」
「声! 声大きい! というかまだ確定じゃないから! …ちょ、小宮さん聞いてるー!?」
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