ストレンジ・デイズ
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「別に付き合いたいとか、そういうわけじゃないんだ。僕なんか全然釣り合わないし…。ただなっちゃんは昔からの憧れで、一緒の学校に入れるの楽しみだったから寂しくて…。僕、人見知りで友達もできないから」
うじうじする小山内の態度に若干イラつきつつもそれを我慢しながら話を聞く。腕を組んで偉そうに見下ろしてくる俺の威圧感のせいか、小山内は俺を見てビクビクしていた。
「人見知りだとか釣り合わないとか、それはとりあえず置いといて。夏川の何がそんなにいいわけ? 俺そこが一番理解できないから、素直に応援しきれないんだけど」
「いいところはあるよ! 男前だし、いつも自信たっぷりで堂々としてるし、口は悪いけど優しいところもあるし……」
「はあ」
まったくもって夏川の良さがわからない俺はそれを聞いてもピンともこなかった。俺の中のあいつはナルシストで暴力的で、とても好きになどなれる相手ではなかった。
「とりあえず告白してみればいーじゃん。気持ち伝えなきゃ無理かどうかもわかんねぇしさぁ」
「だ、だって僕なんかに好かれたって迷惑なだけだよ。現に今なんか話すのさえ許してくれないんだから」
「だからー、それは今だけの話だろ。お前の格好がまともになったら話してくれるって。知らんけど」
そういえばよくよく考えてみると、香月も兄貴が暴露したりしなければ俺に告白する気などまったくなかったのだろうか。男でしかもずっと世話係として付き従ってきた立場を考えると仕方ないかもしれないが、もし黙っていなくなられでもしたら俺は怒り狂っていただろう。
「夏川なんかすでにホモじゃん。その点考えたらハードルだいぶ低くね? 行け行け、その可愛い面で奴を落としてこい」
「でも僕達、従兄弟同士だし」
「ばか、従兄弟は結婚できるから!! いや男同士は無理だけど」
でもでもと告白しない理由ばかり探す小山内に俺は爆発寸前だった。殆ど脅すような口調で奴に詰め寄った。
「だったら逆に、どうしたら告白できるんだよお前は。あ、男同士だとか従兄弟だとか、そういう理由はなしな。それはどうしようもねーんだから」
「……」
泣きそうな顔で俯く小山内に、なんだかこっちがいじめてるような気になってくる。絶対に怒鳴ったりしないように気を付けながら辛抱強く奴の返事を待った。
「……僕がもっと、強くなれたら」
「は?」
「好きな人を守れるくらい、強くなれたら…告白できると思う」
「守るって、お前が? 夏川を?」
「う、うん」
まさかの返答に何とアドバイスすればいいかわからなくなる。この女みたいな顔したもやしがそんなことを考えていたとは思いもしなかった。
「俺昔から体重増やせなくて、力もないし男として弱すぎるのがコンプレックスだったんだ。もっと大きくなって筋肉つけられたら、自信持って告白できると、思う……」
「いや、でも夏川ってあいつ自信が強いし、誰かが守ってやる必要ないと思うぞ? あいつの親衛隊もお前ぐらいのヒョロイ感じのがうじゃうじゃいるじゃん」
夏川の好みは知らないが、俺に手を出そうとしてきたくらいだしムキムキな男が好きということはない気がする。その点で言うと小山内は夏川の好みの外見をしてそうだが。
「でも僕は……」
「わかったわかった、お前が自分を強くしたいっていうなら止めねーよ。それで自信がつくならお前のためにもなるだろうし」
「小宮さん……」
「強い男になりたいなら、俺がお前を直々に鍛えてやるよ。そしたら会長にも告白できるだろ」
俺の言葉に小山内が顔をあげてキラキラした目を向けてくる。いや眼鏡と前髪でよくわからないが、向けられている気がした。
「どうして、僕のためにそこまでしてくれるの……?」
「ん? どうしてって……」
確かに当初の目的とだいぶズレてる気はするが、不思議と俺はこいつを助けてやりたくなっていた。それはこいつと初めて会ったときからそうだ。普段は自分のことだけ考えている俺が、小山内にはとても庇護欲がそそられてしまうのだ。
「ま、お前が夏川とくっついてくれればトミー先輩との昼を邪魔されることもなくなるかもしれねぇしな。人の好意には甘えとくもんだぜ」
俺はガッツポーズをして小山内に笑顔を見せる。奴は不安なのか何となく微妙な顔をしていたが、一応俺の申し出に頷いた。
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