ストレンジ・デイズ
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「今日子ちゃんお待たせ〜」
俺が談話室の椅子に座って待っていると、意外と早く先輩は戻ってきた。右手にはお土産らしき袋を持ち、左手はちゃんと小柄な眼鏡、小山内の腕を掴んでいた。どうやら奴は部屋にいたらしい。
「まずこれ、ハワイ土産ね。ココナッツ味のパンケーキミックスだよ」
「わ〜、ありがとうございます!」
先輩のことだから絶対食べ物だろうと思っていたが案の定。パッケージの裏に外国語で作り方が書かれているのでよくわからないが、後で香月に翻訳してもらおう。
「また作ったら先輩にも持っていきますね〜」
「ほんとに!? …い、いやこれは全部今日子ちゃんが食べていいんだよ、うん」
「一緒に食べたらいいじゃないですか、ね」
「まあ、今日子ちゃんがそう言うなら…」
食べ物で釣ると何でも食いついてくる先輩に、最近は内心ちょろいと思い始めてきた。あくまで俺の今の目的は怜悧のためにトミー先輩に復讐することだということを忘れてはならない。
「でね、ちょうど部屋に小山内くんがいたから連れてきたよ」
小山内は先輩の影に隠れながらおどおどした様子で俺を見ている。その様子に若干イラつきながらも、俺は奴に笑顔を向けた。
「じゃあ僕はもう行くよ。またね、二人とも」
「ありがとうございました〜」
先輩に向かって可愛らしく両手で手を振る俺。トミー先輩も同じく両手で手を振り返してくる。お前はぶりっこしなくていいだろ。
トミー先輩の姿が消えた途端、笑顔を引っ込めた俺はいまだビクビクしている小山内に向き直った。
「あの、僕に用があるって…」
「まあ座れよ」
椅子に深く腰掛け足を組む俺の前に縮こまりながら恐る恐る腰を下ろす小山内。早く帰りたいと顔にデカデカと書いてあった。
「話ってのは、お前と会長のことだ」
「えっ」
「俺はお前とあいつの秘密を知ってるぞ」
周りに誰もいないのを確認して、ヒソヒソ声で脅すように小山内に囁きかける。とりあえずは鎌を掛けてみたが、効果てきめんだったらしく奴の顔はみるみるうちに真っ青になっていった。
「な、なんで? まさかなっちゃんが言ったの? そんなわけないないよね…?」
おおお、今なっちゃんって言ったぞコイツ。裏では会長のことをそんな風に呼んでいるのか。どうやら俺の予想は大当たりだったらしい。
「ははは、やっぱり。お前らってそういう関係だったんだな」
「えっ、やっぱりって…」
「お前が認めたのを俺はしっかり聞いたぞ。何で隠してるかは知らねえけど、バラされたくなかったら俺の質問に答えてもらおうか!」
「質問!? 駄目! 僕、ここでは無関係で通せって言われてるんだ。なっちゃ…夏川先輩が従兄弟同士だってのは、誰にも知られちゃいけないんだって」
「……従兄弟ぉ?」
小山内の口から出た言葉に思わず脱力する俺。奴はすでに涙目だが俺の得意気な表情は引っ込んだ。
「お前ら親戚!? 付き合ってんじゃないの?」
「ぼ、僕となっちゃんが!? 付き合う? ないない! なんで?」
「いや、なんとなくそーかなって…」
「どっちも男なのに?」
「うっ…」
ここにいると男同士は普通付き合ったりしないという前提を忘れそうになる。それにしてもこいつらが恋人同士じゃなかったなんて、すっかり騙された。
「なんだ従兄弟かよーー、そんなの全然つまんねぇじゃん」
「つまらない…?」
「あ、いや。従兄弟ってもうちょっと似てるもんなんじゃねえの? お前と会長ってもう種類から違うじゃん。詐欺だよ、詐欺」
「それはこっちの台詞だよ! こっちから言わなくていいこと話しちゃったじゃんか…なっちゃんにますます嫌われる…」
自ら従兄弟だとバラしてしまった小山内は可哀想なくらい落ち込んでいた。俺としてはまったくどうでもいい情報だったので、言わせてしまったことを少し申し訳無く思っていた。
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