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ストレンジ・デイズ
□恋愛指南


真宮響介、17歳。先日人生初の恋人ができました。


長かったような短かったような、波乱の夏休みも終盤に差し掛かり、もうすぐ新学期が始まろうとしていた。しかしうだるような暑さは勿論変わらず、俺はこのところ毎日ぼーっとして過ごしていた。

原因は、これまでずっとパシリとして側にいた香月が実は俺の事が好きだと知ったからだ。最初は美女になった俺のこの姿に誘惑されてしまったのかと思ったが、話を聞いているとどうやらそうではないらしい。
香月は正真正銘男の俺が好きで、それを理由に俺から離れようとしていた。正直なところ俺は香月を恋愛対象として見たことはないし、だからこそ突然の告白には驚いたが不思議なことに嫌悪感はいっさいなかった。
男ではあるものの香月は俺の目から見ても綺麗な顔をしているし、奴のことは昔からよく知っていて信用もしている。広い意味で考えれば、俺は香月の事が好きだと言っても良いだろう。

しかしいわゆる恋人になった俺達の関係には、一つ問題があった。


「うーーん、わからん」

寮の部屋で一人、俺は唄子の隠してある漫画を並べながら悩んでいた。恋人になったのはいいものの、具体的に男同士で付き合って何をするのか皆目見当もつかなかったのだ。女子とすら付き合ったことがないのに、男でしかも年上の恋人などどう扱えばいいのかわからない。
気合いを入れて唄子のBL漫画を読み込んでみたが、まったく参考にならなかった。告白してその場かまわず、すぐ押し倒すのが常識ではないというのは俺でもわかる。ページの都合上と唄子も言っていたし、香月だってそんなすぐに俺に押し倒されたらびっくりしてしまうだろう。


「キョウちゃん! 聞いて聞いて、大ニュース!!」

ノックもせずに突然扉を勢いよく開け、帰ってきて早々騒がしく部屋に上がり込んでくる唄子。しかし机に並べられた漫画にさすがの唄子の顔もひきつった。

「何これ! 何の羞恥プレイ!? てかあたしの物なに勝手にあさってんの!?」

「いや、ちょっと……」

「ちょっと何よ! もーやだー! ちゃんと言ってくれたら貸すから勝手にはさわらないで!」

唄子が戻ってくる前に返しておくつもりだったのに失敗した。初対面の時、俺に読めと言ってきたくらいだから自由に閲覧オッケーかと思っていたのだが、どうやら読んで良いものと駄目なものがあるらしい。その線引きが俺にはわからないが。

「何で勝手に出して並べてたのよ。もしかしてBLに目覚めた? まあ、あたしは腐男子受けも美味しくいただけるんですけどね」

「目覚めてねぇよ。ただこの学校もこの漫画みたいに男同士で付き合ったりしてる奴がいるわけだろ? そいつら普段なにやってんのかなぁって思って。漫画では基本すぐ脱いでるけど」

「はあ…? 何でそんなこと気にしてんの? 萌えにリアルなんかいらないのよ。そりゃ現実はもっとひっそりしてると思うけど、普通に休日デートしたり部屋でイチャついたりしてるんじゃない」

「何でそんなテキトーなんだよ……」

「だって直接見たわけじゃないし。そんなに気になるならあたしなんかより本物のカップルに訊けばいいでしょ」

「本物」

確かに唄子のいうことには一理ある。変態女の妄想を聞くよりずっと参考になるだろう。こうなったら知り合いのホモカップルに話を聞いて……。

「待てよ。俺の知り合いに男と付き合ってる奴っているか?」

「えーと」

よくよく考えてみると、男が好きだという奴はいても実際に男と付き合ってる奴はいない気がする。善は男相手に金巻き上げてただけで付き合ってはないし、漢次郎は清廉潔白だし、トミーと鬼頭は女好きだ。

「嘘だろ……ホモの集まるホモ神学園のくせに、男と付き合ってる奴が一人もいねぇぞ!?」

「いやいるから。キョウちゃんの交遊関係が狭すぎるだけで」

「いるのか!? 唄子、俺に紹介しろ!」

「あたしが一方的に知ってるだけで、友達でもないのに紹介なんかできないわよ。それにその人たちに具体的に何を聞きたいわけ」

「それは……」

香月と付き合うことになったので参考にしたい。なんてこの女には言えない。知られたら俺の平穏はなくなってしまう。

「キョウちゃん、なんかあたしに隠してない?」

「隠してなんかねえよ。……それより唄子、何か大ニュースがあるんじゃねえのか。さっき言ってただろ」

察しのいい唄子にバレては困ると慌てて話題をそらす。唄子は嬉しそうに顔を輝かせた。

「あ! そうだった。さっき聞いたんだけど、富里先輩と夏川会長が学校に帰ってきたらしいのよ!」

「は? ……ああ、そう」

「何よその反応! 先輩に会えるの嬉しくないの?」

唄子には申し訳ないが今の俺にとってはそこまで重要なニュースでもない。そもそもトミー先輩を惚れさせるというのが当初の目的なのだからもっと頑張らなければならないのだが、今はそれどころではないのだ。
しかしトミー先輩はいいとして、会長の方は一生帰ってこなくても良かったのに。

「……ん? 待てよ。会長…会長っていえば……」


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あきゅろす。
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