[携帯モード] [URL送信]

ストレンジ・デイズ
□制裁


その後も励まし続けてくれた善に、俺は丸くなったまま近寄るなと言い続けていた。心苦しすぎてどうにかなりそうだった時、ようやく助けが来た。


「善ーー!」

「竜二先輩!」

駆け寄ってきたのは金髪の先輩だったが、その後ろから遊貴先輩の姿が見えてほっと息をつく。彼を見てこんなにほっとする日がくるとは思わなかった。

「響…っ」

半裸の俺を見てさすがの先輩も一瞬動揺していたが、周りに倒れた男達を見てなんとなく事情を把握したらしい。俺は半泣きになりながら先輩に向かって叫んだ。

「遅い! 先輩早く助けて!」

「あ?」

「俺、今が一番ピンチだから!!」

俺の必死な形相に色々察してくれた先輩は、ため息をつきながら着ていたシャツを脱ぎ出す。善が止めようとするのも気にせず俺に近づき、シャツを勢い良く被せた。

「着ろ」

「あ、汗くさい…」

「ありがとうございます、だろうが」

「いてっ」

俺の頭をパシンと叩いた先輩に、善が抗議しようとする。それをあっさり手で払い除け、先輩は俺をひょいと持ち上げてしまった。

「わー! 何すんだ、おろせ!」

「うるせぇ、俺の貴重な時間をお前に割いてやってんだからじっとしてろ」

俵担ぎで持ち上げられた俺は、先輩にぴしゃりと言われて大人しくなる。ここで先輩の機嫌を損ねるわけにはいかない。

「竜二、お前は今すぐ山田先生に連絡しろ。小宮今日子を襲った奴らだって言えばいいようにしてくれるだろ。八十島は竜二と一緒にこいつら見張れ。後の始末は先生の指示に従えばいい」

「遊貴はどうすんの?」

「俺はこいつを安全な場所まで連れてく。後で連絡するから、ここは任せた」

「了解」

友人の軽快な返事に遊貴先輩はスタスタと歩き始める。俺はとりあえず大丈夫アピールをしておこうと顔だけあげて善に手を振った。

「善、俺はもう大丈夫だから、助けてくれてありがとな!」

善は唖然としながらも俺に手を振り返してくれる。俺が遊貴先輩に連れていかれることに善は抗議しようとして金髪の先輩に宥められていた。俺はといえば、とりあえず今ここで善に性別がバレずにすんだことにほっとしていた。





意外と力と体力のある先輩が俺を連れてきたのは男女共同の談話室だった。消灯時間はとうにすぎているので中は暗い。俺をソファーに雑に下ろした先輩は、自分も真向かいに腰を下ろした。

「だいたい察しはつくが、何があったか説明しろ」

「……はい」

俺は花火を始めてからのことを洗いざらい先輩に話した。唄子が掴まってデフの連中に襲われたこと。奴らに自分が男だとバレたこと。善に知られるのが嫌でやむを得ず先輩を呼んだこと。始終難しい顔で話を聞いていた先輩だったが、男だとバレたことがわかるといよいよ般若顔になった。

「…てめぇ、何でそんなに抜けてんだよ。俺がわざわざ忠告してやってたってのに、アホか」

「いひゃい」

両頬をぐっと掴まれ、タコの口にされて揺さぶられる。先輩のおっしゃる通りなだけに、俺は何も言い返せなかった。

「鬼頭があいつらを気絶させてくれて助かったかもな。とりあえず時間がかせげる」

「あの人らが目を覚ます前に、なんとかできるんですか?」

「教師にチクる前に口封じできたらどうにかなるかもな。山田先生なら融通きくだろうし、何とかできるよう頼んでやるよ」

「山田先生?」

「風紀の眼鏡の人だよ。お前のとこの副担任だろ」

山田というのが香月の事だというのをすっかり忘れていた。先輩と香月がそこまで信頼しあってることに俺は驚いたが、今はそこに深くつっこんでいる場合ではない。確かに香月に任せればもしかするとうまいことやってくれるかもしれない。

「ただ、奴らに口を閉じさせるなら、交換条件にお前にしたことを帳消しにさせる必要があると思う。仮にお前が奴等を訴えて、退学なんてことになったら確実にあいつらはお前が男だとバラすだろーからな」

「…ああ、なるほど」

「可能なら、俺が奴らを脅して黙らせる。ただ、お前はそれでもいいのか。あいつらとまた学校で会うはめになっても、何事もなかったようにできるか」

遊貴先輩が珍しく真面目な顔をするので、俺は改めて考えてみた。このままあの名も知らぬ男達に襲われたことを忘れて、奴らを見ても平常心を保てるのか。

「まだよくわかんねぇけど。多分我慢できると思う。奴等が関わってこない限りは、キレて殴り飛ばしたりしないはず」

「いや、そういう心配とは違ったんだけど……まあいいか。上手くいくことを祈ってろ。それまで余計なことを言うなよ」

「香月なら、先輩が何かするまでもなくうまくやるかも。あいつ、俺が男だって知ってるし」

「えっ、マジ!?」

先輩が驚いたのを見て言わなかった方が良かったかと後悔したがもう遅い。色々と守る秘密が多すぎて疲れてきたのもあり、俺は正直に話した。

「香月は俺の協力者なんっすよ。ああ、バレたって知られたらすげー怒られる……」

「でも先生、お前のことすげー好きじゃなかったっけ。てっきりファンなのかと思ってたけど」

「? あいつ俺の保護者気取りなんで……そんな風に見えてんですか?」

とりあえず香月が俺のファンだというのは否定しておいた。しかしどちらにしても俺は香月に叱られるのだと思ったら更に気が重くなった。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!