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ストレンジ・デイズ



「す、菘!?」

茫然としたまま動けない俺の耳に、善の声が聞こえた。彼は無抵抗な人間をサンドバッグみたいにタコ殴りにする鬼頭を見て慌てて止めに入った。

「待て菘! 何やってんだ、殺す気か!?」

「…善、止めるな」

「だって、お前何でこんな……っ!」

上半身脱がされたままうずくまる俺に気づいたらしい善は、一瞬言葉に詰まる。再び殴り始めた鬼頭を、善が再び止めた。

「離せ! こいつら、キョーコさんを…」

「それ以上やったら死ぬぞ。こいつらじゃない、お前のために止めてるんだ」

善の言葉に、鬼頭がようやく大人しくなる。キレて別人のようになった鬼頭に俺はただうずくまって奮えているしかなかったが、善は長年の付き合いというだけあって冷静に奴の気を静めてくれた。

「キョウ大丈夫か? 何があったんだ」

「来るな!!」

近づいてこようとする善に、反射的に叫ぶ。暗闇のおかげでまだ善と鬼頭には男だとバレていない様だが、これ以上近づかれればどうなるかわからない。

「頼むから、それ以上こっちに来ないでくれ…!」

「キョウ…」

善達の目には男に襲われて怖がっているように見えるだろうが、俺は単に自分の正体がバレるのが嫌なだけだ。しかし善は様子の違う俺にショックを受けているようだった。今すぐにでも事情を説明したいがそういうわけにもいかない。

「キョウ、もう大丈夫だから。俺達はお前を助けに来たんだ」

「わかってる。でも、俺には近づかないでくれ」

必死に隠そうとすればするほど善の不安を煽ってしまう。何とかこいつらを自分から遠ざけられないかと思ったが、こんな状態では俺を放っておいてくれるはずがない。

「俺は大丈夫だから、もう行ってくれ」

「行くって、どこにだよ」

「唄子が、どこかに捕まってるんだ。仲間もまだいるかもしれない。唄子を探してくれ」

「…わかった。菘、阿佐ヶ丘さんをさがしてくれ」

「僕が?」

心底驚いた顔をする鬼頭に善が頷く。俺は慌てて善に頼んだ。

「二人で行ってくれ。俺は大丈夫だから」

「ダメだ。まだ仲間がいるかもしれないんだろ。キョウを一人にはできない。菘、頼む。お前をこっちに残すと、また殴り始めそうだからな」

「……わかったよ」

渋々、といった顔で鬼頭がこの場を去る。あいつに唄子を任せて良いのかと不安ではあったが、ここに残られるよりは何倍もマシだ。

「キョウ、怪我は? 立てるか?」

「ごめん、善。俺は平気だから…」

このままずっとこうしているわけにもいかない。ここでずっと丸くなっていても人が集まってくるだけだろう。地面に転がっている奴らの口から俺が男だというのはバレるだろうから、隠しても意味ないのかもしれない。しかし善に知られてしまう覚悟は今の俺にはまだなかった。
一番の解決策は香月を読んでもらうことだ。しかし善が香月の連絡先を知っているとは思えないし、直接呼びにいってはくれないだろう。となると、俺に残された選択肢は一つしかない。

「善、お前デフの金髪の先輩と仲良かったよな」

「? 竜二先輩のこと?」

「そう、そいつだ。その人に連絡とって、ゆーき先輩呼んでもらえるよう頼めないか」

俺がとった最後の手段は遊貴先輩に助けを求めることだった。忠告してくれていた先輩ならすぐにこの状況を飲み込めるだろうし、香月や唄子を呼べない以上あの人しかいない。

「ゆうきって、デフの樽岸遊貴? どうしてここに呼ぶんだよ」

「理由は後で説明するから。誰にも見つからないようにここに来て欲しいって伝えてくれ。頼む」

「…わかった」

善は俺があまりにも必死だったので、疑問は後回しにして携帯を取り出した。遊貴先輩の友達に電話を掛けると、相手はすぐに出たらしく事情を簡単に説明してくれた。すぐに来てくれるぞ、という善の言葉に俺はようやく肩の力を抜くことができた。


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