ストレンジ・デイズ
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図書館で鬼畜教師、新名に大量に出された課題をなんとか終わらせた後、俺はふらふらになりながら廊下を歩いていた。
「勉強勉強勉強、って俺はいったい何しに来てんだろ…」
トミー先輩がいなくなってから、この学校にいる意味が見いだせなくなってきた。こんな勉強づけの状況で、帰宅部の俺がこの娯楽のない学校で耐えられるはずがない。
「部活終わったら、善に遊んでもらおう…ってうわっ! なに!?」
誰もいないことをいいことに盛大に一人言を呟いていた俺は、横からのびてきた手に引きずり込まれた。薄暗い教室に無理矢理連れ込まれ、大声を出せないように口を塞がれる。
「んん! んー!」
力が強くてまったく振りほどけない。香月や唄子にあれだけ言われていたのに、生徒の数が減っただけですっかり油断していた。
「静かにしろ、俺だ」
「…! ゆーき先輩…!?」
突然、俺を捕まえたのは中学時代の部活の先輩だった。遊貴先輩は名乗ったことで俺の口を塞いでいた手を離したが、俺の方は叫んで助けを呼ぶべきかまだ悩んでいた。
「な、何なんすかいきなり…。お互いに不可侵、不干渉を守るって約束はどうしたんですか」
「だから誰にも話してるとこ見られねぇようにしてんだろうが。手短に済ませるから大人しく聞け」
とりあえず今すぐ殴られたりする心配はなさそうなのと先輩が怖すぎるので話を聞くことにする。けれどいつでも逃げ出せるように心の準備はしていた。
「お前、デフの連中には気を付けろよ。一部の奴らに狙われてるぞ」
「えっ……まあ狙われるのは慣れてますけど。むしろ一部しかいないことが驚きっすけど」
「そういう意味じゃねーよ。お前、もう荒木さんに近づくな」
「荒木さんって……あ、あいつか」
一瞬誰かと考えたが荒木という名前には聞き覚えがある。以前俺のピンチを救ってくれた優しそうなイケメンだ。
「荒木さんをあいつ呼ばわりとはな。ほんと、あの人のお気に入りじゃなかったらすぐにでもしつけてやるとこだ。お前のせいで荒木さんが最近腑抜けてるって噂まで流れてる。荒木さんの信者にとってはお前は邪魔なんだよ」
「え、信者とかいるの? あの人」
確かに綺麗な顔をしていたし、周りから一目置かれているようだった。俺には出血多量のイメージしかないが。
「あとあのトラブルメーカー八十島善にもな。うちの野郎共のほとんどがあいつのファンだ。仲良くしすぎると痛い目見るぜ」
「えええ、なんですかそれ。こんな可愛い女子相手に嫉妬とか、馬鹿じゃないっすか? 普通逆だと思いません? あー…ホモって怖い」
「可愛いって…お前そんな性格だったっけ」
「だって事実ですもん。先輩だって俺のこと可愛いって思いますよね!?」
「うるせー! こっちはお気に入りだった後輩が偽名使ってまで女になってることにまだ混乱してんだよ! 女装の出来なんか知るか!」
遊貴先輩に怒鳴られてトラウマが再発しそうになったので慌てて距離をとる。けれどドア側をとられているので逃げ出したくなくても逃げられなかった。
「とにかく、忠告したからな。むやみやたらに一人になるなよ。今みたいに捕まるぞ」
そう物騒なことを言い残して遊貴先輩は教室から出ていってしまった。よくわからないが、とりあえず俺のことを心配してくれたということだろううか。あの先輩に限ってそれはないと思うが、お気に入りの後輩なんて言っていたし(主にサンドバックとしてだろうが)忠告は聞いた方がいいだろう。
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