ストレンジ・デイズ
□夏休みのはじまり
「早く家に帰りたい…」
夏休みの補習を終え、食堂で昼食をとりながら俺は嘆いていた。目の前にいるのはトミー先輩ではなくルームメイトの唄子だ。先輩は夏休みと同時に帰省してしまい今この学校にはいない。
「ダメダメ、キョウちゃんは補習が終わった後もここで勉強してもらいますから」
「えーー! お前鬼かよ」
「だってキョウちゃんこのままじゃ進級できないよ!?」
「う…」
確かに裏口入学なだけあって俺の今の成績では留年してもおかしくない。香月や善や校長の力を借りてなんとか首の皮一枚で繋がってる状態なのだ。
「何笑ってんだよ、お前」
「だって今までのキョウちゃんなら、この学校には長居はしない〜とか言ってたじゃん」
「あ…」
言われてみれば俺がこの学校で進級だのなんだの気にする必要はない。指摘されて初めて気がつくなんて、まさかこのままここに居続けるつもりなのだろうか。
「いやいやいや、だってトミーが俺に全然全然なびかねぇんだもん。こりゃ長期戦覚悟だろ」
「あたしも協力するから、なんでも言ってね!」
俺と男をくっつけることに関しては全力な唄子。今そんなに意気込まれてもトミーはいないわけだが。
「…そういや、唄子は帰らねぇの?」
「キョウちゃん見張ってないと心配だから残る。部活にも参加するし」
「ああ、そうですか…」
こいつのいない日々を送れるかと期待したが、人生そううまくはいかない。ここ生徒の半分程は帰省したが、部活のためなのか残り半分は唄子と同じく寮に残っている。
「まあいいけどな、今度怜悧がこの学校に遊びに来てくれる事になったし。怜悧にさえ会えたら俺はそれで」
「えっ、妹さん来るの? それって……大丈夫!?」
「ちゃんと小宮怜悧として、姉に会いに来るよう言ってあるから大丈夫!」
「…香月さんは知ってるの?」
「言ったけど反対された。でも関係ねーよ、あんな奴」
怜悧が香月を説得してくれるというので、すべて任せることにした。可愛い妹に会う機会を邪魔されてたまるか。
「そういやキョウちゃん妹の話しかしないけど、他の家族とはどうなのよ」
「どうって…父親はほとんど家あけてるし、兄貴もほとんど帰ってこないし、母親にいたってはいないようなもんだし」
「えっ、お母さんどうしたの?」
「いや、別にどうも。ただ海外で遊び回ってるから家にいないだけ」
うちの母親は今でこそただのオバサンだが、昔は怜悧そっくりの超美人だったらしい。一目惚れしたうちの父親が猛アタックするも、結婚する気がサラサラなかった母は断り続けていた。だがあまりのしつこさにとうとう根負けして、家事育児等の主婦業をいっさいしないという条件で結婚を承諾したそうだ。
「あいつは子供はいらなかったけど、祐司に頼まれたから産んだらしい。娘が欲しかったから結局三人も作るはめになったってのが笑えるけど…って何でお前涙目なの」
「だ、だって、キョウちゃんは何で平気なのよ〜お母さん、帰ってきてあげてよぉ…」
「いや、別にもともといなかったから何とも…。あいつは俺を息子とは思ってないし、俺も母親だと思ってないし」
「これ以上この話はもうやめよう! あたしがもたないから!」
「お前から振ってきたくせに…」
母親のことに関しては俺はまったく気にならないので唄子の過剰反応だとしか思えなかった。だが特別掘り下げたい話というわけでもなかったので、俺はあっさり話題を変えた。
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