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ストレンジ・デイズ
■新名貴文の秘密


俺は早速、風紀の生徒全員に後夜祭の見回りの件について説明した。しかし俺の予想以上に生徒達は抵抗があったようで、みな一様に顔をしかめていた。

「しかし先生、それはただの奴らの口約束でしょう。奴等が守るとは思えません」

「う…」

一二三くんの正論に何も言い返せない俺。確かに彼らは信用できないが、今回の事に関しては信じていいと自信があった。約束してくれた上原君の目は裏があるとは思えなかったのだ。

「デフを信じるのではなく、先生を信じるということでは?」

「そんなこと言って、前に騙されたじゃないですか…」

「あの時とは違います!」

一二三君の冷たい目がつらい。彼らの言うことがわかるだけにどう説得していいかわからなかった。デフの悪行を見逃したお礼などとバラすわけにもいかず、俺はなんとか知恵を絞った。

「では、こうしましょう。校内は先生が見張ります。絶対にデフの出入りは許しません」

「しかし、広すぎる校内を一人で見張るのはいくら先生でも無理があるのでは…?」

「信頼できる協力者を頼むので大丈夫です。みんなは安心して、交代で後夜祭を楽しんでください」

「……」

最初は渋っていた一二三君達だが、やはり祭に参加したい気持ちはあるのか最後はお願いしますと頭を下げてくれた。
一応、協力者にあてはあるのだが、まだ本当にやってくれるかどうかはわからない。彼らのためにも死ぬ気で説得しなければと俺は笑顔の下で焦っていた。







「という訳でお願いします! 俺と一緒に後夜祭の見回りしてください!」

「ぜってーー嫌だ!!」

その日の夜、俺は怒り心頭の東海林さんに頭を下げていた。もちろんそんな簡単に了解してもらえるはずもなく、俺はひたすら東海林さんの気持ちが変わるまで頼み込むつもりだった。

「そんな、どうして? どうせ夜はここでダラダラしてるだけなのに!」

「うるせーほっとけ!」

「東海林さんは北館だけでいいですから。誰もいない校舎の見回りするだけですよ? 人に会う必要もない」

これは引きこもり状態になっている彼を部屋から出すチャンスだ。俺の手を握れるところまできているのだから、もう次の段階に進めるはずだ。

「心配しなくても大丈夫です。一二三君に聞いたんですけど、後夜祭の間校舎に入った人間は今までいないそうです。誰にも会うことはありません」

「じゃあ見張る必要ねーじゃん」

「見張りがいるというのが抑止力になってるんですよ。多分!」

例えば風紀は深夜に敷地内を見回ることがあるが、それは風紀の生徒が各自で見回る日を決める。年に三回というノルマはあっても、いつするか、何回やるかはその生徒が好きに決めていい。そのため深夜などは見張りがいないも同然ではあるが、この自由な見回りのおかげで生徒の深夜の徘徊が激減したそうだ。ここでも風紀に見つかるかもしれないという可能性が抑止力になっているのだ。

「それに俺は彼らが嘘をついてるとは思いません。恐らく本気で校舎には人を近づかせないつもりでしょう」

あの時の上原君の目は本気だった。そもそも校舎は鍵が普段通り閉まっているし、校内で何かしたいなら監視のない後夜祭以外の日の方が都合が良い。

「お前がそう思うのは勝手だけどな、俺を巻き込むな」

「東海林さんだってここの警備員みたいなものじゃないですか。護身術身に付けてるのだって、俺知ってるんですからね。何かあれば俺に連絡してくれるだけでいいですから」

「そういう問題じゃねぇ!」

その後も彼は絶対に首を縦には振らなかったが、俺は東海林さんを連れていく気満々だった。後夜祭の事を抜きにしても彼をそろそろ外へ引っ張り出すつもりだったのだ。無理矢理引きずってでも一度ここから出してやらねばと、俺は密かに決めていた。


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