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ストレンジ・デイズ



俺はその日の放課後、上原君に呼び出されていつものたまり場までやってきていた。仕事がまだ残っているので用事を終えたらすぐにでも戻りたかったが、満面の笑みの上原君に抱きつかれ身動きが取れなくなってしまった。

「山ちゃん遅い!」

「何事ですか、これは」

俺の胸元に顔を埋める上原君を生暖かい目で見る余目君達と、お昼寝中の荒木。俺に飛び付いてきた以外と重い小さな身体をひっぺがしたが、横からまたしても勢いよく抱き締められた。

「山ちゃんほんまにありがとう! あいつらのこと見逃してくれたんやろ? やっぱ話わかるわー」

「え? 何が?」

「車谷達の話! 新名に難癖つけられてたけど、結局おとがめなしやったってきいたで」

「いや、あれは証拠がなかったので仕方なく…」

「またまたー!」

小さい身体に似合わず物凄い力で締め付けてくる彼をなんとか引き離す。まさかそんな風に思われていたとは驚きだ。証拠がないというのがもちろん一番の理由だが、大事にならずほっとしているのも事実だった。響介様のことがある以上、関係はなくともこの学校が注目を浴びるようなことはなるべく避けたい。

「まさか、これが俺を呼んだ理由じゃないでしょうね」

「いやいやそれだけちゃうで。まあ座って座って」

座れといわれても椅子があるわけではないので芝生の上に正座する。爆睡中の荒木以外の三人は気持ち悪いほど上機嫌で、見てわかるくらいに浮かれていた。

「新名の奴、今頃悔しがっているだろうぜー。あの童顔野郎が風紀だった時は問答無用で処罰されてたからな」

「あいつはやりすぎだったんだよ。今の三年なんかあいつのせいで六人も退学になったらしいし」

「俺らも二人くらい追い出されたよな。自主退学扱いだったけど」

樽岸君と余目君の会話に、俺は首を捻りながら口をはさんだ。

「あの、確か俺の前任は前田先生という方だったと思うんですが、新名先生は一体いつまで風紀委員だったんでしょう?」

「あいつは俺らが一年の時までやで。任期中で突然やめるって言い出してん。なんでか知らんけど」

「生活指導との兼任が体力的に厳しいとか、そんなんじゃなかったでしたっけ。あいつがやめるってだけでデフはみんなお祭り騒ぎだったから、あんま覚えてないっすけど」

この学校の生活指導とは、デフではない生徒の服装チェックや校則違反を主に行っている。確かにただでさえ苦労の多い風紀の仕事に加えて一般生徒も見なければならないのは大変だ。やめたくなっても仕方ない。

「で、突然新名からその前田に代わってんけど、そいつ数ヵ月でこの学校をやめよってん。体調崩したとかそんな理由で」

「あなた方、いったい何をしたんですか」

「いやいや俺らマジで何もしてへんねんって! 新名以外やったら誰でも万々歳やってんから」

俺が来たときはすでに前田先生は退職されていた。元々、風紀委員というは一年ごとの交代制でやるものなのだ。給料は上がるが、その分過酷すぎる労働が待っているので誰も自ら進んでやりたがらない。

「風紀委員は大変なんです。俺じゃなくて、生徒達が。あなた方が楽しみにしてるお疲れパーティーだって参加できないんですよ」

「えっ、そうなんっすか? 何で?」

「貴方達が大騒ぎするからじゃないですか。何とか彼らにも時間を作ってあげたいんですが、やっぱりこの学校は広すぎて…」

実は風紀の会議の後、さっそくシフトを組み直して一二三君に見てもらったがすぐにダメ出しされてしまった。どうしたって広大な敷地を死角なく見張るには人数が足りないのだ。校舎内だけで全体の半数近くとられてしまう。

「せやったら俺達から校舎の中には絶対入らんように言うとこか? 実美の命令ならみんな従うやろうし」

「え!? ほ、ほんとですか!?」

「元々今日は山ちゃんに何かお礼しようと思って呼び出したんやで。こんなんでええならお安いご用や」

校舎が監視対象に入らないならかなり人数を減らすことができる。またとない申し出に俺は上原君の手を握りしめた。

「ありがとうございます上原君! 是非お願いします!」

「ええよー。そもそも俺らパーティーんときまず校舎入らんしな。外で花火する奴らはめっちゃおるけど」

あははと笑う上原君がこの時ばかりは天使に見えた。これで一二三君達にも後夜祭を楽しんでもらえると、俺はすっかり浮かれていたのだった。


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あきゅろす。
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