ストレンジ・デイズ
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「お兄ちゃん! 私もう自分が嫌!」
そう嘆きながら俺の部屋に入ってきたのは妹だ。驚くべきことに、大きな瞳に涙を潤ませ泣いている。
「ど、どうした怜悧!? また陰湿な女にイジメられたのか? 怜悧は可愛いからひがむ女はたくさんいるだろ?」
だが怜悧はふるふると首を横に振った。僅かに肩が震えている。
「違うの…実は私、……フラれたの」
「なななな、なんだって!?」
フラれた!? というか怜悧に好きな男がいたのか!? どこの馬の骨が俺の大事な妹に? ……許せん。地球の果てまで追いかけ追い詰めぶっとばし、顔の原型なくしてやる。
「……お兄ちゃん、変なこと考えないでね」
「バカだな、変なことなんて考えてないよ」
怜悧に好きな男だなんて一体どこのどいつだ。怜悧の通う中学は女子校だし、それらしい男もいない。しかもよりにもよって怜悧をフった、だって? そんな男がいるわけない。それはきっと男じゃない。
「どこの誰だ、ソイツは」
俺が問いかけると怜悧は潤んだ瞳で俺を見上げた。
「家庭教師の、富里先生」
あのヤロォォオ!!!!
クソっ、危険だとは思っていたんだ。男になれない怜悧をあんな優男に近づけるなんて! どこで間違ったんだ、アイツには十分用心していたはずなのに。あのクソロン毛、俺の怜悧に色目なんか使いやがって。
「怜悧…なんであんな男……」
「だってトミー、すっごく優しかったんだもん」
怜悧に優しくない男がいるわけないだろ!! だってお前はそんなに華奢な体で、くるくるサラサラの髪を揺らして、思わず守ってあげたくなっちゃうような女の子なんだからな。
「トミーなんて忘れろ、あの男、お兄ちゃん最初からいけ好かないと思っていたんだ」
ちなみにトミーとは奴のあだ名だ。
「でもトミー…あんなふり方しなくても…」
可哀相な怜悧は必死に嗚咽をおさえている。
「何て言われたんだ?」
怜悧は一瞬口を開こうとしたが、苦しそうに再びうつむいた。どうやら口に出すのも嫌なくらいヒドいことを言われようだ。
「よし、お兄ちゃんが今からぶん殴ってきてやるからな」
俺は復讐心をメラメラ燃やし、勢いよく立ち上がる。だがそんな俺の服を怜悧はぎゅっと握った。
「だめ、お兄ちゃん。殴らないで」
俺は慌てて怜悧の小さな手を握りしめた。
「どうして、怜悧もアイツが許せないだろ?」
怜悧はまるで天使のような慈愛の笑みを見せた。
「もちろんよお兄ちゃん。だから私、とってもいい方法思いついたの。肉体的にじゃなく精神的に痛めつける、とびっきりの方法をね」
「……………」
さ、
さすが俺の妹……!!
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