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ストレンジ・デイズ



ようやく10周走りきった俺は、その場で精魂尽き果て見事にぶっ倒れた。善にはクールダウンしろと言われたがもう体力は一ミリも残されていない。もちろん今すぐクイズ大会に参加する気力もなかった。

「ほら、キョウ。水分とれよ」

地面と同化しそうになっている俺に善が水を持ってきてくれる。それをがぶ飲みしているうちに何とか体を起こせるまでに回復したが、遠くから聞き覚えのある声がして俺は嫌々ながらも顔を上げた。

「お姉様ぁ〜! お疲れ様でしたーー!」

俺の元に元気よく走ってきたのは変態ストーカー女の柊だった。差し出されたタオルには嫌な予感がしたが汗だくだったのでそのまま使うことにした。

「お姉様の素晴らしい走りにこの柊芽々、感動いたしました! さすがです!」

「……お前、なんか元気だな」

「そりゃあ女子は普通たった3周ですもん! 余裕ですよ! ねっ、あんずちゃん」

「は……はい、私はそれでもすごくしんどかったですけど……」

存在感の薄い丸眼鏡のおさげ女が柊の横に引っ付いている。この二人がいるということは唄子も近くにいそうなものだが姿が見えない。

「なぁ、唄子はどこだよ」

「唄子ちゃんまだですよ! 多分もうすぐゴールするんじゃないかと思いますけど」

「はあ? まだしてなかったのかよ。冗談だろあの運動音痴」

3周しか走らないのに何をやってるんだあいつは。競歩でももうゴールしてんじゃないのか。そういえば何度か抜かした記憶があるが、まったく俺に絡んでこなかった。邪魔しないためかと思ったが、単に余裕がなかっただけか。

「もー、お姉様はいっつも唄子ちゃんのことばっかり。あーあ、いいなあ唄子ちゃんは」

「や、や、やっぱり二人はそういう関係だったりするんですか? きゃーー!」

「んなわけねーだろキモいこと言うなボケ」

丸メガネが異様にはしゃぐのでこいつが女同士の恋愛が好きなことを思い出した。本当は俺は男だから同性愛にはならないのだが、唄子とそんな関係に見られるだけで吐きそうだ。

「……っていうか俺、いったい何位だったんだ? 早瀬とか抜かしてねえし、一位じゃないのはわかるんだけど、途中結構抜かしたよな善……ってあれ」

同時にゴールした男二人に尋ねようとしたが、二人ともいつの間にか姿を消していた。
鬼頭は別にどうでもいいが善まで勝手にいなくなるなんて、いったいどこに行ったんだ。

「おそらく10位以内には入っているかと思いますよ! お姉様がゴールした時はまだ殆ど帰ってきてませんでしたし。でももうクイズ大会は始まってるかと」

「え!? マジかよどこで!?」

善の代わりに答えた柊に尋ねると、スタート前にトミー達がいたテントの方を指差した。俺が倒れているうちにかなりの人数がゴールしたらしく人だかりができている。

「やっべ俺行かないと!」

「待ってお姉様、タオルをお返しください!」

「嫌だ。洗濯してから返す」

「そんな! 洗ったら意味ないのに!」

変態の本性をさらしてきた柊を無視して、人だかりに向かって突っ走る。俺ってまだ走れたんだと感心していると、トミー達の横に座る早瀬や真柴を含んだ男達の姿が見えた。

「……えええマジで始まってるよどうすんだコレ」

「心配しなくても大丈夫、ってさっき言ったじゃん」

突然横から話しかけられたので何かと思えば隣に善がいた。いったいこれのどこが大丈夫なのか、という視線を向けると、奴は心配ご無用とばかりに笑顔で親指をたてていた。


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