ストレンジ・デイズ
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「ってことで、はいこれ。あたしからのプレゼント」
「ん? な、なに!?」
いきなりジャージのポケットに突っ込まれたのは小さな紙だった。中身を確認しようとしたが唄子がそれを必死に阻止してくる。
「出しちゃ駄目だって、隠して隠して!」
「いや、何だよこれ」
「カンニングペーパー。クイズの答えが書いてあるから、これを見ればバッチリ」
「ええ!? それ不正じゃね!? 」
「しーっ! 大声出さないで! あたしの苦労を水に流す気?」
堂々と俺にズルをさせようとする唄子に愕然とする。いつの間にそんな悪になってしまったのか。
「お前バカか!? そんなことしていいわけないだろ!」
「バカはそっちでしょ。冷静になって考えて。これがないと例え一番でゴールできたとしても、キョウちゃんが優勝できるわけないじゃない」
「た、確かに……ってアホか! それでも真剣な勝負にズルは駄目だ!」
「何良い子ぶってんのよ。このまま七竈の好きにさせていいわけ? あたしは絶対に我慢できない。必ずあたしらに喧嘩売ったこと後悔させてやんのよ」
何かこいつの個人的復讐に利用されてる気がする。俺も奴には腹が立つが、せこい真似をしてまで勝ちたいとは思わない。
「とにかく、これはいらないから」
「せっかく苦労して準備したのに!」
「普通に準備するお前が怖いよ……。とにかく、余計な小細工はいらねぇから」
カンニングペーパーを迷わず突き返して、俺は絶好のスタートの位置を確保するために前方に進んだ。
その途中、男に囲まれてちやほやされている七竈と目があってしまったので思いきり睨みつけた。
「あーら小宮今日子じゃない。男かと思ってスルーするところだったわ。身長といい体型といい、まるで女らしさがないわね」
「ど、どうも……」
「何でちょっと照れるのよ」
女装など本意ではない真っ当な男なので、男らしいと言われると少し嬉しい。別に女になりたいわけじゃないし。
「走りやすそうな体型で羨ましいわぁ。私はもう胸が重くって」
制服よりも体操服の方がずっと胸のデカさが強調されている。というか、サイズがちょっと小さすぎじゃないか。ピチピチだぞ。ボイン丸わかりだぞ。
「悪いけど、俺は優勝狙ってっからな。お前の思い通りにはさせないぜ」
「あら、女子は参加できないの知らないの?」
「生徒会に10周走る許可もらったもんね! だから俺も優勝できる!」
「……は、はあ? そんなことしたって、女子が男子に勝てるわけないじゃない」
「へっへー、それはどうかなぁ。俺の運動神経なめんなよ!! じゃ、俺は先頭確保してくっから!」
「ちょ、ちょっと! 小宮今日子、私の邪魔したら許さなくってよ!」
焦り始める七竈を見てしめしめと思いつつ、俺はスタートライン目指して人混みを駆け抜ける。何の根拠もなく、優勝するのは自分だという確信が俺にはあった。
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