ストレンジ・デイズ
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全校生徒でのラジオ体操を追えた後、クイズへの参加権を得た俺は男子の列に並んでいた。男の中で準備運動をする俺を周りは不思議そうに見ている。絶対に優勝してやると一人意気込んでいると、少し離れたところから黄色い歓声があがった。
「あ? 何でお前がこっちにいんだよ」
「げっ」
いったい何の騒ぎだと思ったら、なぜか制服姿の夏川が俺を見つけて怪訝そうな顔をしていた。ずいぶんと遅い到着だ。こいつが現れたくらいで何をキャーキャー言ってるのかと思ったが、奴の後ろには同じくなぜか制服姿のトミー先輩もいた。
「あっ、トミー先輩! おはよーございます!」
「今日子ちゃん、おはよー。元気いっぱだねー」
「そりゃもちろん! 優勝狙ってますから!」
張り切る俺と違ってトミー先輩ははすごく眠そうだ。しかし夏川といいトミーといい、なぜいまだに制服のままなのだろう。
「やっぱ10周走りたいっていう女子、今日子ちゃんのことだったんだ。すごいね」
「はい! トミー先輩にだって負けませんよ。手加減はしません!」
「あ、それは……」
「こいつ今年走らねーぞ」
「へ」
トミー先輩からエールを貰えて、俺のやる気が加速していたところに夏川に邪魔に入られる。きょとんとする俺に奴は話を続けた。
「去年3周目でぶっ倒れて救急車呼ぶはめになったんだ。持久力ねーくせにペース配分も知らねぇ。見学させるしかねーだろ」
「えっ、じゃあ先輩走らないんですか!? そんなっ!」
「……ご、ごめんね、今日子ちゃん」
物凄く落胆する俺にばつが悪そうに謝るトミー先輩。だから体操服じゃなくて制服だったのか。いや待てよ、だったらなぜ夏川も着替えてないんだ?
「まさかお前も出ないのか!?」
「ん? ああ」
「何故!?」
「生徒会長はクイズの問題の最終確認するから、一位になってもクイズには参加できねーんだよ。ただ意味もなく走るだけなんてつまんないだろ。やる気もでねーし今年はハルキと一緒に見学する」
「はああ?」
何甘えたこと言ってんだこいつ、と思ったが奴は走りたくないというよりはふてくされてる様に見えた。確かにどんなに早く走っても順位がつかないと思うとやる気もなくすだろう。
『開始10分前となりました。生徒の皆さんはスタートラインまで移動をお願いします』
「あ、やべっ」
放送が入り、生徒達がいっせいに動き出す。並ぶ順番は特に決まってないのでスタートの位置は早い者勝ちなのだ。
「ではトミー先輩、俺の勇姿、ちゃんと見届けて下さい!」
「うん、頑張ってね」
トミー先輩に向かってガッツポーズをした後、すぐさまスタートラインへ向かう。その途中で唄子を見つけたのですぐに捕まえた。
「唄子!」
「あ、キョウちゃん。良かったぁ、探してたんだよ。あのね……」
「トミーが! 走らないって言ってるんだけど!」
「ええ?」
奴が走らないなら必死に優勝なんて狙う必要はないんじゃないのか。何のためにこんなに気合い入れてるのかということを忘れそうになるが、そもそも七竈とトミーをくっつくのを阻止するためなのだ。
「んー、まあ別にいいんじゃない。気にしない気にしない」
「いやいや気にするっての! だってこれでもうトミーが優勝なんてありえねーわけじゃん。俺の頑張る意味ないし!」
「あのねぇキョウちゃん。七竈の奴が何て言ったか忘れたの? 優勝者のお願い1つだけ聞いてくれるのよ」
「だから?」
「キョウちゃんが優勝して、七竈にもう先輩に手を出すなって言ってやればいいじゃない」
「…………お前、天才か?」
唄子の言葉に素直に感動する。そうか、別にトミーがいなくてもあの女に一泡ふかせてやることもできるのだ。
「頑張ってね、キョウちゃん」
「まかせろ唄子! 必ず優勝してこの俺に喧嘩ふっかけたこと後悔させてやるぜ!」
にこにこと微笑む唄子にガッツポーズをする。あの女の悔しそうな顔が見られると思ったら俄然やる気がでてきた。
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