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ストレンジ・デイズ
□汗と涙のマラソン大会


何だかんだ色々あったが、その日はすぐにやってきた。季節外れのマラソン大会、そして俺と七竈のトミー争奪戦に決着がつく日だ。今日のこの日のために俺は日々努力をしてきた。夜に走るのは諦めたが、唄子が俺のためにランニングマシーンを用意してくれたので、女子寮の空き部屋で毎晩走っていたのだ。


「コンディション抜群、天気良好、絶好のマラソン大会日和だな」

「キョウちゃん絶好調ね。これは優勝したも同然って感じ?」

スタート地点の校門前に生徒全員が集まる中、俺はすでに準備運動を始めていた。唄子は俺に発破をかけながら遠くにいる七竈を睨み付けている。

「トミーの件を引いても俺はやる気満々だぜ。絶対に優勝してやる」

「お姉様ぁ! 頑張ってくださいねー!」

柊とその他大勢が俺にエールを送っている。おそらく俺の非公認ファンクラブの連中だろうが、お前らも今から走るというのに元気なことだ。

「…キョウちゃん、ちょっと言いづらいんだけど、あたし大事なこと伝えてなかったんだよね」

「何だよ、怖いな」

屈伸しながら唄子を見ると、罰が悪そうに視線をそらした。嫌な予感がする。

「このマラソン大会は敷地外を10周して、クイズに早押しで答えるってのは言ったじゃない。優勝者の所属する部活の部費がアップするってのも」

「ああ、聞いたな」

「でもそれは男子の話でね、女子は3周しか走らないそうなのよ。だから部費が関わるクイズには参加権がないんだって…」

「へー、まあそんなの当然だろ。お前ら女子は残念なのかもしれねぇけどな」

「いや何言ってんの。キョウちゃんも女子だから」

「……………あ」

そうだ。すっかり忘れていたが俺はいま女だった。あまりに自然体すぎて女のふりしてたのを忘れていた。つまり女の俺はこの優勝争いに参加できないってことか?

「ってなんじゃそりゃ!! 俺の努力の意味! 全然ないんだけど!」

「ご、ごめんねキョウちゃん。女子がいるのって今年からだから、あたしも気が回らなくて」

「ごめんねじゃすまねーんだよ! どーすんの、どうすりゃいいの!?」

「まあ、わかんないけど男子と同じ10周走るならクイズにも参加出来るんじゃない? 実行委員に話をつければ……」

唄子の話が終わる前に、俺は仮設のテントへ一直線に走った。そして忙しそうに動き回る腕に腕章をつけた男子生徒を捕まえた。

「……えっ、な、何!?」

「あんた、実行委員の人か?」

「そうだけど……」

「頼む! 俺を男子の方へ入れてくれ!」

「へ?」

突然訳のわからない頼みをされて困惑している様子だったが、ごり押しでも何でも入れてくれなきゃ困るのだ。

「ごめん。意味がよく……」

「だから俺を男の方に混ぜてくれって言ってんの! 3周じゃ優勝できねーだろ」

「ええ?」

「馬鹿! いきなり何言ってんのキョウちゃん! すみません皆瀬先輩、この子どうしてもクイズにも出て優勝したみたいで……」

遅れて俺を追いかけてきたらしい唄子が俺を押さえつけながら説明する。顔は笑顔を作っているが目は俺を鋭く睨み付けていた。

「え、でもその子って確か帰宅部じゃ……?」

「負けず嫌いでほんとに困っちゃいますよね〜〜。絶対優勝するってきかなくて。……なんとかなりませんか?」

「あー、ちょっと確認してみるわ。待ってて」

そいつが行ってしまってから唄子に軽くどつかれる。どうしてそんなに暴力的なんだ。俺が何かしたのか?

「何いきなり突っかかってんのよ。先輩がフランクな人だったら良かったものの、いきなり失礼でしょ」

「な、なんだよ。唄子あいつ知ってんのか?」

「彼は写真部の部長よ。体育委員でもまとめ役だから、マラソン大会の実行委員長を任されたんだって。いいなー」

「……何がいいんだ?」

「委員長は大会の実況担当でもあるからマラソン大会参加しないの。羨ましい……あたしも走りたくない……」

「実況って何それ」

「おーい、二人ともお待たせー」

実況って何だろうと思っていると先程の実行委員長とやらが帰ってきた。そして俺たちに向かってぐっと親指を立てて爽やかに微笑んだ。

「生徒会に頼んできたよー。オッケーだって」

「わあ、ありがとうございます先輩!」

軽い調子で戻ってきた唄子の先輩に、そんな簡単にきいてもらえるのかちょっと驚く。笑顔で礼を言う唄子は俺の後頭部を押さえつけられ無理矢理頭を下げさせた。

「その代わり、体力がもたなかったらすぐ棄権すること。様子がおかしかったらこっちが止める場合もあるからね」

「はーい」

自分で頼んでおいてアレだが、なんともテキトーな行事である。ゆるゆるの生徒会に不安を覚えたが、生徒会のあのメンツを思いだし、無理もないかと心の中で納得していた。


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