ストレンジ・デイズ
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「あんた、唄子のこと勝手に決めつけてんじゃねぇよ」
あっけにとられる唄子兄を指差し思いきり睨み付ける。別に怒っているつもりはないが、自分の出した声には怒気が含まれていた。
「こいつだってやりたいことぐらいある。自分の都合押し通してんじゃねえぞ」
「や、やりたいこと……?」
「唄子は写真が撮りたいんだ。カメラマンになりたいんだよ」
「は、はぁ!? ちょっとキョウちゃん何言ってんの!?」
自分の撮った写真を夜な夜な眺めていた時のあの思い詰めた表情、跡を継ぐと言った時のあの歯切れの悪い返事、そして唄子をフォローしてくれと言った香月。察しがいいあいつのことだ、唄子のことをずっと前からわかっていたに違いない。俺はここで、言われるがままの唄子を見るまで気づかなかったが。
「そんなの言ったことないでしょ!! 勝手なこと言うのやめてよ!」
「なんだよ、間違ってたか? 間違ってねーだろ」
「そ、それは…っ」
「唄子、今のは本当か?」
じいさんが俺と唄子を交互に見て訊ねてくる。唄子は何と言っていいかわからない様子で口をパクパクさせていたが、俺の手首を掴んで部屋を飛び出した。
「う、唄子?」
「いいから黙って」
部屋を出た唄子はギロリと俺を睨み付けて、一気に捲し立てた。
「何考えてんの!? いきなりあんなこと言うなんて、演技もできなかったじゃない!」
「演技っつーことは、図星だったんだろ? だったら俺に感謝しろよ。お前をフォローしてやったんだから」
「誰もそんなこと頼んでないでしょ! 余計なことしないでよ! 馬鹿!」
「馬鹿だぁ?」
いきなり馬鹿呼ばわりされて俺も血管ブチ切れる寸前だった。感謝されないとしても怒られる筋合いはない。
「お前が言いにくいことを俺が代わりに言ってやったんだろ。あのまま黙ってたらお前兄貴にいいよーに利用されてたぜ」
「……なにそれ、何にもわかってないくせに、知ったような口きかないで」
「はあ? わかってんだろーが。お前がほんとは後継ぎたくないってのは、俺以外には誰にもわかってもらえてねーみたいだけどな」
「そういうことじゃない! 何にもわかってないのはキョウちゃんの方よ。あんなこと言ったらお兄ちゃんが……」
「?」
「唄子」
どんどん縮こまっていく唄子に訳がわからなくなっていると、ドアを開けた理事長が唄子を呼んで手招きしてくる。俺にこれ以上何も言うなとばかりに睨み付けた後、奴は部屋に戻っていく。態度の悪い唄子に苛つきつつ、俺もすぐに後を追った。
「唄子」
兄貴に名前を呼ばれて、唄子が身構える。よくわからないままあんな一方的に責められたのだ。もう俺は何も言ってやる気はなかった。
「……ごめん、俺、お前のこと何にも考えないで、自分のことばっかり……」
「お、お兄ちゃん」
「唄子は後なんか継がなくていい。俺がやるとまでは今すぐには言えないけど、お前は何も気にすることはない」
突然妹思いになった兄に、いきなりどうしたんだと俺は疑心にまみれた視線を送った。まるで別人みたいでうさんくさいとしか思えなかったが、唄子の方は半泣きになっていた。
「お兄ちゃん、あたし別に……っ」
「前はよく、撮った写真見せてくれたよな。きっと唄子ならなれるよ。俺の夢でしかない夢とは違う。じいさんも俺も応援するから」
「でもそれで、お兄ちゃんが音楽やめるなんてことになるのは…!」
「おーい、盛り上がってるとこ、悪いんだけどさ」
突然話に入ってきた声に、全員が驚く。いつの間に入ってきたのか、白衣の男が気だるそうにこちらにやってくる。唄子の天敵であるここの保険医、奴のイトコだ。
「その大事な話、僕もちょっと混ぜてくれない?」
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