ストレンジ・デイズ
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次の日の、唄子は前日の言葉通りずっと俺に張り付いていた。香月もことあるごとに俺の様子を見に来ていて、正直ちょっとウザい。
そして放課後も俺を監視……もとい護衛するために現れた香月は、唄子と共に俺に張り付いていた。
「別に二人して一緒にいなくても…。唄子は部活あるだろ」
「これから理事長室へ行くんですよ。昨日話したでしょう」
「え、あれマジで行くの」
「当たり前です。唄子さんのお兄さんはもうお待ちになっていますよ」
「うぇー」
「あたしだって同席させたいわけじゃないけど、目離したらすぐどっか行くんだもん。別に話なんて聞かなくてもいいから、一緒の部屋にはいて」
唄子はそういうが、香月はフォローしてやれなんて言う。でもフォローって具体的に何をすればいいんだ。まったくわからないが唄子がいるので香月に詳しく聞くこともできない。そしてそうこう悩んでいるうちに理事長室についてしまった。
「俺は風紀の見回りがありますのでここまでです。後はよろしくお願いしますね」
「はい、後はお任せください」
唄子が笑顔で香月に答えたが今のは俺に言ったようにも聞こえた。香月が行ってしまい、逃げる言い訳を考える間もなく唄子がドアを開ける。嫌々ながらも俺は唄子の後についていった。
「今日子ちゃん! 俺に会いにきてくれたの?? ってか何で連絡くれないんだよ〜!」
俺を見つけた唄子兄が飛び上がって駆け寄ってくる。相変わらずチャラチャラしたナンパ野郎だ。
「こら歌音、大人しく座らんか!」
「お兄ちゃん、今はそんなこと言ってる場合じゃないから」
「そんなぁ」
唄子が兄貴を引きずって革張りソファーに座らせる。連絡ちょうだいね! と俺に向かって叫んでいるが無視だ無視。
「お待たせ、おじいちゃん。キョウちゃん見張ってないといけないから、ここに置いといてもいい?」
「ああ、それはかまわんが。何かあったのか?」
「ちょっとね。大丈夫、香月さんがなんとかしてくれるから。さっさと本題に入りましょ」
唄子と兄と祖父で真剣な話し合いが始まる。俺は少し離れた場所で暇潰しに携帯を触っていた。
「だからー、何度も言うように俺は後なんか継がないから。音楽一本で食ってくから」
「歌音、何を馬鹿なことを言っとるんだ。いい加減目を覚まさんか。お前がやっとるのはただの騒音だろうが」
「ジジイにはわかんねーんだよ! 口出しすんな!」
「才能がないのがわからんのか。まともに稼いどらんくせに、口だけは一人前になりおって」
関係ないと無視していても、どうしても親子の酷い口喧嘩が耳に飛び込んでくる。可愛い怜俐の写真でも見て現実逃避したくなったが、うるさくてまったく集中できない。最早話し合いではなくただの喧嘩だ。
「二人とも、ちょっと落ち着いて」
「唄子、こいつにははっきり言っとかなわからんのだ」
「うるせーな、だいたいジジイは唄子ばっかり可愛がりすぎなんだよ。そんなに好きならこいつにやらせりゃいーじゃん」
「話をすり替えるな。唄子はまだ一年生なんだぞ。これからやりたいことが見つかるかもしれんだろう」
「だからそれが学校経営だっていいだろ。な、唄子。お前もそれでいいよな?」
「え、えっと……」
話の流れが唄子を時期理事長にみたいな流れになっている。あいつが理事長なんて俺からすれば不安でしかないのだが、兄貴の方でも心配なのでもうどちらでもいい。あの保険医といい、ろくな後継者候補がいないな。
「……あたしは別に、お兄ちゃんが嫌ならやってもいいけど」
「ほら! 唄子もこう言ってることだし、こいつにやらせよーぜ!」
「……唄子、本当にそれでいいのか?」
じいさんの言葉に頷く唄子を見て、そうだったのかとちょっと驚く。まったくそういう話をしたことがなかったので、奴がそんな風に考えていたとは思わなかった。だがBL好きな奴にはここで就職なんて願ったり叶ったりなのかもしれない。もう一度共学から男子校に戻したりしそうだが。
だがそれにしては、唄子の奴あまり嬉しそうじゃない。乗り気ではないが、やってもいいってことなのか。まあ別に他にやりたいこともなさそうな奴だし……いや、ちょっと待てよ。
そこまで考えて、俺は香月の唄子をフォローしてやってくれという言葉を思い出す。なぜ香月がそんなことを言ったのか、今の唄子の表情を見ればわかるような気がした。
「んじゃあとは唄子に任せるってことで。俺はもう帰るぜ」
「歌音、少し待……」
「ちょっと待った!」
「……キョウ、ちゃん?」
突然話に割り込んできた俺に三人が固まる。俺は仁王立ちのまま唖然とする唄子兄を睨み付け、宣言した。
「待ちな唄子兄、悪いけど唄子は理事長になんかならないぜ。話し合いの続きをするぞ」
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