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ストレンジ・デイズ
□兄と妹


「なにそれ、そんなことあったの!?」

寮の部屋で夕飯を食べていた時、今日の話をしたところ唄子が箸を投げ出し血相を変えて叫んだ。未遂だったからといって世間話でする内容じゃなかったかもしれない。

「いやでも、結局は何もなかったわけだし……」

「未遂だから何なのよ! 何でキョウちゃんはそんなに危なっかしいの!? 香月さんも何とか言ってください!」

当然のように俺達と一緒に食卓を囲む香月の箸を持つ手は震えている。ボキッと嫌な音がしたと思ったら、香月の箸は真っ二つに折れていた。

「誰ですか……キョウ様にそんな野蛮な真似をした糞野郎は……」

「え、誰だろ。多分デフの誰かだと思うけど、名前も顔も覚えてねぇー」

「もーしっかりしてよ! もう一度見たらわかる?」

「んー……不良ってどれも同じに見えるからなぁ」

唄子の質問に顔を思い出そうと頑張ったが駄目だった。名前も口にしてなかったし、声を聞いてもわかるかどうか。

「そのキョウちゃんを助けてくれた人ならわかるんじゃない? キョウちゃん、その人の名前は?」

「わからん」

「そこは聞いときなさいよ」

聞く前にとっとと走っていってしまったのだ。奴らとは知り合いっぽかったが、デフには見えない程育ちの良さそうな顔をしていた。

「そいつの顔なら、見たら多分わかると思うんだけど」

「じゃあもし見かけたらおしえてよ。その人に感謝して、これからは迂闊に一人にならないように。なるべくあたしか、香月さんと一緒にいること」

「ええー、別にお前らとじゃなくても、善とか誰かしらと一緒にいればいいだろ」

「駄目。そりゃ男女別の体育とかは仕方ないけど、キョウちゃんすぐ油断して一人になるでしょ。要は信用できないの。可能な限りはあたし達と一緒にいてもらうから」

「めんどくせぇ……」

俺が信用できないのはわかるが、一応自分のことなのだからそこまで能天気でもない。正直男3人に囲まれて逃げ場を失ったときはどうしようかと思った。

「キョウ様、どうかお願い致します。俺はもう心配で心配で昨晩も一時間しか眠れませんでした。このままじゃ今日は一睡もできません」

「はいはいわかったわかった。でも俺だけじゃなくて善も気を付けてやってくれよ。一応メールでは注意しといたけど、あいつぼーっとしてるとこあるし」

「八十島君のことは余目君に頼みます。彼がいれば大丈夫でしょう。キョウ様は自分の心配だけなさって下さい」

「いやでも……」

「頼みますから、言う通りに」

「……はい」

いつになく真剣な香月の表情に俺は大人しく頷く。別に香月のせいでもないのに、とうやら責任を感じているらしい。




その後、香月が二人きりで話があると言うので、唄子が風呂に行くまで奴は部屋にいた。ようやく二人だけになって、香月は難しい顔で話し始めた。

「実は明日、唄子さんのお兄様が学校に来られるんです」

「あ、そーなの? また? てか何でお前がそんなこと知ってるわけ」

「もちろんこの学校に出入りする人間は必ずチェックを……でなくて、警備の方にたまたま聞いたんです。それで理事長に理由を聞くと、どうやら跡継ぎの件で話し合いをされるそうで」

「それまだ解決してないのかよ」

「知ってるんですか?」

「本人に会ったもん。弟継ぐ気まったくなさそうだったけど」

「らしいですね。それで、明日の話し合いには唄子さんと樋廻さんも呼ばれるそうです」

「ふーん。で、それがどうしたわけ?」

なぜ香月がこんな話をするのかはわからないが、それは唄子の問題で俺は関係ない。正直どうでもいいのだが、香月は何を気にしているのやら。

「その話し合い、キョウ様も同席して下さい」

「は? 何で?」

そんな家族水入らずの会議に俺なんか参加してどうするんだ。前はたまたま立ち会うことになっただけなんだから、今回はもういいだろう。
意味がわからず聞き返す俺に、香月は顔をしかめたまま話を続けた。

「理事長は唄子さんのお兄さんに後を継がせたいと考えているみたいですが、場合によっては唄子さんに任せてもかまわないと思ってるんです。唄子さんをフォローしてあげて下さい」

「ふぉろー……?」

「どのみちキョウ様は一人にできませんし、理事長に許可はもらってます。では明日、お願いしますね」

「えええ…?」

俺の部屋を出た香月は不審者よろしく裏の窓からこそこそと出ていく。訳のわからないまま何かをお願いされて、俺はその場でしばらく奴の言葉の意味をしばらく考えていた。


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あきゅろす。
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