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ストレンジ・デイズ



「いや、付き合ってねーけど」

「マジで!? よっしゃあ!」

俺があっさり否定すると3人の男達は気持ち悪いほどはしゃぎ始めた。どうでもいいが、いい年してこんなことでハイタッチはやめてくれ。

「ほら言ったろ! この女は副会長と付き合ってんだって。善とは関係ねーよ」

「でも八十島が売りやめたのって、小宮と仲良くするようになってからだし、八十島はこいつが好きなのかもしれねぇぞ」

「……そ、そうなのか?」

不安そうにこちらを見てくる男に、俺は何を言えばいいのかわからなかった。正直俺のことを女として意識してるかどうかすら怪しいので好きだなんてあり得ないだろうが、そう言ってもこいつらは納得しなさそうだ。

「もうやめとけよ。事実がどうであろうと八十島はもうデフとは関わらない。そこが問題だろ」

「ちっくしょう! 俺なんかまだ口でしかしてもらってねぇのに! こんなことになるんだったらさっさとヤってれば良かった…!」

言い争いながら落胆する3人に俺はなぜ自分がここにいるのだろうか遠い目になっていた。話から察するにこいつらは善の元客、もしくは善狙いの野郎共というところか。んであいつがやらせてくれなくなったから怒ってると。……俺関係なくね?

「まさか本当に善の話だったとはな…」

「……っうおっと! 今の話聞いてたか? やっべぇ、善の秘密バラしちゃったよ」

「野郎相手に売春してたことか? 知ってるけど」

「うぇええ?!」

3人が同時に叫び、俺のことをまるで変人を見るような目で凝視していた。

「何で?! 八十島が自分で言ったの!?」

「いや、男に迫られてるとこ偶然見た」

「マジかよ! 善死ぬだろそれ」

何でこいつ平然としてられるんだ? という3人の物言いたげな視線が痛い。知ったときは子供みたいに善に怒鳴ったりもしたが、今はもう過去のことだしどうでもいい。

「八十島の奴、こいつにバレたからやめたんじゃねーの?」

「それだ! 絶対それだ! おい小宮、善に売りは続けていいって言え! それかもうこっぴどく振ってやれ!」

「いやいやいや、だから別に善と俺はただの友達だから。知らねーから。……つーわけで、さいなら」

「あ、待てっ」

無茶な要求をぶつけてくる男達を置いてとっとと帰ろうとしたが、腕を掴まれて身動きがとれない。さすがの俺もマジギレ寸前だ。

「しつけーな! だから関係ねーっつってんだろ」

「付き合ってなかろうが、善にとってあんたが特別なのは事実だからな。あんたを使えば善は何でもする」

「は、はぁ?」

「善に言うこと聞かせるにはテメーが必要なんだよ。大人しくしてろ」

「つーか俺的にはこの女でもいいけど。どうせ無理矢理するんだったら同じだし」

「な……」

ヤバい、馬鹿すぎて油断していたがこいらヤバい。やっぱり何だかんだ言っても不良だ。善も危険だが健在進行形で俺がヤバい。

「はぁ? なに言ってんのお前。女なんかどーだっていいだろ」

「俺はお前と違って女もいけんだよ。善はお前にやるからさ、小宮は……」

「おい!」

奴らの言い争いは、一人の男に止められた。どこからか現れたそいつは息を切らして、作り物みたいに整った顔を歪ませて俺達を睨み付けていた。いや、正しくは俺ではない。この男共だ。

「……てめぇら、そこで何やってる」

「ひいい! 何でここに!?」

突然出てきたその男の地を這うような言葉に、さっきまで威勢良く俺に噛みついてきた奴らの顔が引きつった。俺から即座に手を離し、足を震わせながら後ずさっていく。

「てめぇら、こいつに手ぇ出してただで済むと思ってねぇよなぁ…?」

「ごめんなさいごめんなさい!」

「何もしてません! マジで何もしてませんからぁあ!」

「おい、逃げんな!」

あっという間にバラバラに散っていく男共を呆然と見ていると、その美形の男と目があった。とても不良には見えないが、あのデフの連中が逃げ出すほどだ。ただ者じゃないのはわかる。……やり手の風紀委員か何かだろうか。

「おい、今日子っ。大丈夫か」

「は、はいっ」

……呼び捨て?

「その顔の怪我、どうしたんだ」

「え」

「顔の怪我! 誰にやられたんだよ! まさか今の奴らか!?」

「ち、ちがいます」

「じゃあ誰だ!」

あまりの気迫にぽろっとゆーき先輩の名前を出しそうになったが、すぐに約束を思い出して口をつぐんだ。なぜこのキラキラした男がそんなことを気にするのかはわからないが、ここでも嘘をつくしかない。

「これは、自分の不注意でした怪我なので、誰とかないっす」

「そんなわけっ、………ああ、いや悪い。怒鳴ってごめん。怖がらせたいわけじゃねーんだ」

別に怖がってるわけじゃないのだが、男はなぜか申し訳なさそうに萎縮していた。しかし、見れば見るほど格好いい男だ。うちの香月といい勝負ができそう。

「何かあった時は、必ず俺に言え。俺が絶対守ってやるから」

「え?」

若干、顔を赤くしながら男は去り際にそんな捨て台詞を吐く。そして俺が止める間もなく、逃げていった男達を物凄い早さで追いかけていった。

「いや、言えっていわれても、名前もわかんねーんだけど……」


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あきゅろす。
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