ストレンジ・デイズ
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嫌だ嫌だと嘆いても、出せやコラと脅しても、一二三がせっかく捕まえた俺を解放してくれるはずもなく。俺はそこから約二時間かけて強制的に反省文を書かされた。ほとんど一二三にこういう風に書けと言われた言葉をそのまま用紙にうつしただけだったが、俺が疲労という名の反省の色を見せると一二三もなんとか解放してくれた。
「また夜間外出をすれば、今度は反省文ではすまないぞ。肝に命じておけ」
「はいはい」
頼まれてももう夜には出ていかない。あんな酷い目にあうとは思っていなかった。不良がうろついてるなら言っといてくれ。
「待て、今日は送る」
「……は? いらねーよ。まだ明るいし」
こいつが優しくなるとマジで気味が悪い。俺としては暗くたってこいつと並んで歩くなんてごめんなわけだが。
「おい! 止まれ小宮今日子!」
「だからいらねーってば! しつけーんだよ!」
「こら! 廊下を走るな!」
俺を呼び止める一二三を無視して、俺はとっとと階段を二段飛ばしで駆け降りた。いつも俺を追いかけるときはこいつも走っているのになんてえらそうなんだ。
ほんとに昨日と今日と散々な1日だった。大半は自分が悪いけれど、俺は今のイライラをすべて一二三のせいにすることで鬱憤を晴らしていた。
六月半ばのこの時期、外はまだ明るく運動部も照明をつけずに練習していた。寮へと向かう途中、練習中のサッカー部が見えた俺は、ふらふらとグラウンドに近寄っていた。1年はこの時期まだ体力作りをしていたが、先輩達に混じってプレーする善が見えて、気がつくと俺はフェンスにしがみついて応援していた。
「そこだ! いけ善っ、……っ、ちくしょー……」
「小宮さん」
一人で盛り上がっていたところに後ろから声をかけられる。振り向くとそこには知らない男が立っていた。他人に一人言を聞かれた……とちょっといたたまれなくなっている俺に、男はゆっくりと近づいてきた。
「ちょっと大事な話があるんだ。……一緒に来てもらっていいかな」
「……は? 話あんなら今言えよ」
無害そうな男だが、面識のない奴にほいほいついていくほどバカでもない。だいたいこんなところで話しかけてくるなんて偶然会えただけだろうに、いったい何の用があるっていうんだ。
「同じクラスの八十島のことなんだけど……」
「善? 善が何?」
「……ここではちょっと」
きょろきょろと辺りを警戒する男にただならぬものを感じた。善に関して人目を気にするような話といえば、恐らく奴が金をもらって男の相手をしていた件だ。確か今はもうやっていないと言っていたが、今更俺に何を話すことがあるというのか。
「……わかった」
かなり迷ったが、結局俺は男についていくことにした。ゆーき先輩のこともあって被害妄想気味になっていたが、まさかいきなり襲いかかってきたりはしないだろう。こんな金持ち学校にゆーき先輩並みの凶悪な野郎がゴロゴロしているわけがない。もし仮にそうなっても股関を蹴り飛ばして逃げれば良いのだから何も心配はいらない。
少しためらいつつも男の後を追ったが、どんどん人気のない方へ向かって一向に止まる気配がない。こんなところ人の通るところじゃないだろうというところまできて、しびれを切らした俺は奴に声をかけた。
「おい、まだかよ。つかここでいいだろ。話するだけなんだから」
俺のイラついた声に男が止まる。けれどなかなかこちらを向いてくれないので、何かおかしいと思って近づいた瞬間、後ろから思いきり捕まれ口を塞がれた。
「んっ……!?」
「騒ぐな、声だしたら痛い目見るぞ」
あっという間に拘束された俺は訳がわからず呆然としていたが、あと一人男が出てきたのが見えて俺をつれてきた奴と意味深な視線をかわしたので、すぐに自分が騙されたことに気がついた。
「よく連れてこれたな、誰にも見られてねぇか?」
「ああ、大丈夫だ」
俺をつれてきた男以外は不良丸出しの格好で、デフの連中だとすぐにわかった。
……しまった、見た目で大丈夫だと判断した俺のミスだ。
「んー! んーーっ」
「こら暴れんな! ……いてっ」
俺の口を塞いでいた男の手に必死の思いで噛みつく。腕の拘束は緩まなかったが、叫べるようにはなった。
「てめぇらどういうつもりだ! さっさと放しやが……んっ」
「うるせぇっ。大人しくしてたら、お前には何もしねーよ」
「……?」
俺には、ってどういうことだ。俺を捕まえていながら俺には何もしないのか?
訳がわからず困惑していると、男の一人が難しい顔をしながら口を開いた。
「お前、八十島と付き合ってる話、本当なのか?」
「……は?」
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