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ストレンジ・デイズ



「今日子ちゃん! 怪我大丈夫!?」

「ト、トミー先輩?」

二時間目が終わっての休憩中、俺のクラスにトミーがやってきた。トミーの方から俺のクラスに足を運ぶのは珍しい。しかも今は距離を置いている真っ最中だ。しかもトミーの後ろにはなぜか夏川と漢次郎までもが一緒にいて、完全にいつもの昼食メンバーだった。

「……みなさんお揃いで、どうかしたんですか」

「今日子ちゃんが怪我してるらしいって聞いたから心配して見に来たんだよ。ね、みんな」

「いや、俺はハルキが行くっつーからついてきただけ」

「僕も夏川様を追いかけてきただけです」

「……いや、みんな素直じゃないだけなんだよ!」

トミー先輩や漢次郎が来てくれたのは嬉しいが、この怪我の件を説明しなければならないのは困る。トミーは泣きそうな顔をしていて夏川は不機嫌、漢次郎にいたっては怒っていた。

「なんだよその酷い怪我。誰にやられた?」

「別に、こけただけ」

「嘘つけ、どう見ても殴られた傷だろ」

夏川の決めつけた発言に何も言えなくなる。だが誰にも何も言わないと約束した以上俺は黙秘を貫くしかない。

「仕返ししてほしい奴がいるなら言っとけよ」

「……は? 何それ、言えばお前が復讐でもしてくれんの?」

「いや、それはこいつが」

会長が指し示したのは隣で怖い顔をしていた漢次郎だった。いつも可愛い漢次郎から隠しきれない怒りのオーラが見えている。

「女性の顔に傷をつけるなんて、どこのサイコ野郎の仕業だ…。絶対にころ──」

「殺すなよ」

夏川の物騒な発言はさておき、漢次郎がそこまで俺のことを……と感動していると彼の眼光が俺を捉えた。

「お前もお前だ。もしこれが一生残る傷だったらどうする! もっと気を付けろよ」

「うぇ!? ご、ごめん」

いつもと別人のような本気のトーンで怒られて素直に謝ってしまう。夏川は余計だがトミーも漢次郎も俺を心配してくれているのだ。俺って愛されてる、と調子のってしまっても仕方ないだろう。

「漢次郎、俺は大丈夫だからさ。トミー先輩も、わざわざありがとうございます」

「おい、俺は」

「おめーはいらん」

というか何で来たんだこいつ。俺の怪我を見て笑いにきたのかと思ったがそういうわけでもなさそうだし。俺の怪我が予想以上に酷くて引いてるのだろうか。

「あ、そういえば俺、しばらく食堂には行けそうにありません。食べるとどうも口ん中痛くて。今ゼリーしか食えないんです」

「えっ、ゼリーしか食べてないの!? それで生きていけるの!?」

「ハルキ、うるさい」

注目が集まってたところで夏川がトミー先輩を止めた。会長副会長、そして可愛い漢次郎の三人がそろってクラスメート達が気にならないはずもない。たまたま鬼頭がいなくて助かった。また喧嘩が始まってはかなわない。

「ハルキ、もう行くぞ。授業に遅れる」

「あ、うん。わかった。今日子ちゃん、またメールするね」

小声でそう耳打ちしてトミー先輩達は帰っていった。あれはきっと後で事情をきくという意味だろう。また誤魔化すのが面倒だと思いながらも、俺は先輩が心配して見に来てくれた事を嬉しく思っていた。





その日の放課後、居残り勉強のなかった俺はとっとと寮に戻ろうとしたが、心配で仕方ないらしい香月がわざわざ教室まで迎えにきた。付き添いなんていらないと言ったが今日だけでもと無理矢理押しきられてしまう。おかげで俺は教師つきで教室から寮までの短い距離を歩くことになった。


「こんにちは、先生。お疲れ様です」

途中、深々と頭を下げて挨拶してきたのは俺の天敵、風紀の一二三正喜だった。慌てて香月の後ろに隠れたがめざとい奴にはすぐに気づかれてしまう。

「小宮今日子、どうしたんだその傷。大丈夫か?」

優しく声をかけられて、思わずほんとに一二三なのか凝視して顔を確認してしまった。奴がこんなに優しくなるなんて、やはり目立つ怪我の効果は絶大だ。

「心配なさらないで、一二三君。小宮さんは大丈夫ですよ」

「そうですか」

香月の答えに満足したらしい一二三はもう一度俺を見て、距離を詰めてきた。

「小宮今日子、怪我をしているところ悪いが、一緒に来て欲しいんだが」

「えっ、どこに」

「来ればわかる」

俺の手首をとって強制的に連れていこうとする一二三。俺は香月に助けを求めたが、過保護な俺のパシリはにこにこと笑うだけだった。

「山田先生、こいつは俺が責任をもってお預かりいたします」

「わかりました。では、よろしくお願いいたします」

「え!? おい、香月っ」

超過保護で俺のことが大好きなはずの香月がいとも簡単に俺を手放してくれる。樽岸といい一二三といい、香月は目の前の敵がまったく見えていない。


香月から離れ、迷うことなく進んでいく一二三に不本意ながらもついていく。そしてしばらく歩いたかと思ったら、唐突に一二三が止まり俺は奴の背中に思いきりぶつかった。

「いてっ。……って、何ここ」

「反省室だ」

「反省室ぅ?」

「今からここで反省文を書いてもらう」

「は!? なんでだよ」

怪我した女にはさすがに優しいかと思ったが、一二三はどこまでも一二三だった。なぜ殴られた被害者の俺が反省するんだ、と思っていると、一二三は不思議そうな顔でを俺を見下ろした。

「深夜徘徊は校則違反だ。昨夜堂々と破っておいて、何を言ってる」

「えっ、何で俺だってわかったの!?」

昨日は無事逃げおおせたはず。その後のことを考えると無事だとはとても言えないが。

「お前以外にあんな跳躍と脚力で逃げ回る奴いないだろう」

「そ、そこ!? わかんないじゃん! それだけで俺だとはわかんねーじゃん!」

「わかる。だいたい今認めただろが」

「げっ」

「いいから入れ」

「ま、マジかよ……。詐欺じゃんこんなの……」

この状況では逃げることもできず、一二三は俺を逮捕した犯人よろしく狭い部屋に入れ、そこの机に置いてある原稿用紙に反省文を書くよう指示した。そして書き終わるまで出さないと断言して、木刀を床に突き立てドアの前で仁王立ちになっていた。


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