ストレンジ・デイズ
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次の日、登校中の俺はもう凄まじい数の好奇の目に晒されていた。すれ違う生徒の全員が俺の顔を見て仰天している。クラスに入るまでは遠巻きに騒がれるくらいでまだ良かったのだが、柊と鬼頭に見つかった時はクラス内がたった二人で阿鼻叫喚状態だった。
「うわああああ!」
「いやああああ!」
「うるせぇ……」
この二人、昨日の香月と反応がまったく同じだ。この世の終わりみたいに嘆いている二人はもう放置することに決めた。だが心配そうに声をかけてきた善を無視することはできなかった。
「キョウ、大丈夫か? その顔どうしたんだよ」
「……別に、転んだだけだから」
「転んだぐらいでそんなアザができるわけないだろう? 誰にやられたんだい、キョーコさん!」
俺の足にすがり付いてきた鬼頭は即刻蹴り飛ばしておく。頑なに口を閉ざす俺を善は不安そうに見ていた。
「阿佐ヶ丘さん、何か知らない?」
「それがキョウちゃん、あたしにも何も言わないの」
見知らぬ不良に殴られたなんて言えば大事になるのがわかっていたので、唄子も俺に話をあわせてくれた。ただモロに殴られた傷痕ができてしまっているので、誤魔化せているとは到底思えない。多少不自然でもやっぱりマスクはしとけば良かった。
「誰かに酷いことされたなら、ちゃんと話した方がいい。俺にじゃなくても、阿佐ヶ丘さんとか先生とかに」
「別に俺は何もされてない。だから話すこともねーよ」
善はまるで納得していないらしく、俺を見ては困ったように顔をしかめている。どうやって説得しようか考えている面だ。俺も俺でどうすれば放っておいてくれるのか考えていたとき、二人の生徒が現れてクラスの空気が一瞬で変わった。
「おい遊貴ー、わざわざ小宮今日子に会う意味あんのか? 馬鹿じゃねーの」
「文句があんならついてくんな。あいつが名指しした女なら、何か知ってるかもしれねぇだろ」
俺達の教室に顔を出してきたのは俺が今一番会いたくない相手、遊貴先輩とその連れの金髪野郎だった。奴らがまさか本当に確かめに来るとは思ってなかった俺は飛び上がるほど驚いた。何やら俺を探している様だったのですぐに隠れようとしたが、時すでに遅し。俺は先輩と目があってしまった。
「おい1年坊主共、ここに小宮今日子は……」
俺に気づいた遊貴先輩と金髪は数秒間硬直した後、まるで化け物でもみたかのような形相になっていく。よろよろと力のない足取りで俺の方へ向かってくる先輩に善や唄子は身構えたが、先輩は俺の顔の傷しか見えていない様子だった。
「…………マジで?」
遊貴先輩がようやく口にした言葉はそれだけだった。むしろそれを言うのが精一杯というか、この状況に脳が追い付いていないといった感じだ。逆の立場なら俺だって同じように狼狽えていただろう。ああ、殴られ損もいいところだ。
「……だから言ったじゃないですか。ゆーき先輩の、馬鹿」
本当はもっと罵倒してやりたかったが、橙遊貴相手にはこれぐらいが限度だった。後が怖いので恨みがましい視線を送り続けるだけ治しておく。
俺に睨まれた先輩はみるみるうちに真っ青になっていった。それは俺も同様でむしろ俺の方が顔色は悪かっただろう。ピンチなのは正体がバレたこっちの方だ。
「でえええ!? マジで? マジであの小宮今日子だったわけ!? そんなのあり得ねぇだろぉお」
「竜二、うるせぇ」
遊貴先輩より金髪の方が騒ぎまくっている。突然現れ叫ぶ不良達に訳のわからないA組生徒たちは唖然としていた。
「……とにかく、とにかくちょっと来い。話がある」
それはそうだろう、と素直に立ち上がり先輩に手を引かれるまま教室から出ていこうとした。けれどそれを咄嗟に一人の男に止められる。善だ。
「おい、キョウをどこに連れてく気だよ」
いつも人当たりのいい善が先輩相手にタメ口、しかも口調がかなりキツい。ああ? と遊貴先輩が噛みつこうとするのを金髪が止めていた。
「遊貴、落ち着けって。善も」
「先輩、俺、昨日ちゃんとキョウとは何もないって言いましたよね? 何なんですか、いきなり。俺への当て付けなら……」
「いや! これは俺達の事とは関係ないんだって!」
善と金髪が小声で何やら言い合っている。よく聞こえないがこの二人知り合いだったのか? いや、今はそんなことよりこの場をなんとか乗りきらなければ。唄子もいるんだ。余計なことを話されては困る。
「善、大丈夫だから。行かせてくれ」
「でも」
「いいから。すぐに戻る」
善以外の奴らも俺を力ずくで止めるべきか悩んでいるみたいだったので、行動に移される前に俺が先輩の手を引いて教室から出ていく。デフの不良二人を引き連れ廊下を歩きながら、あいつらにどう言い訳するかを俺は必死で考えていた。
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