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ストレンジ・デイズ



あの悪魔が来ると確信した俺はあの手この手で金髪から逃げようとしたが、奴はガッチリ掴んだ俺の腕を絶対に離さなかった。最後の方はもう泣き落としするしかなく、俺の必死すぎる泣きべそに金髪は若干引いていた。


「竜二!」

「ひいっ」

そうこうしているうちに俺の天敵ゆーき先輩が現れ、小さく悲鳴をあげる俺。こっちを見て先輩が鬼の形相になるのが暗がりでもわかった。

「おー、遊貴。こっちこっち……」

「てめぇ響介! 今まで何してやがった!?」

「ひぃいい」

怖い怖い怖い。俺はもう駄目だ、ここで死ぬんだと半ば諦めていた時、遊貴先輩の顔がさらに険しくなった。

「お前、何で泣いてんの。竜二、響介に何かしたのか」

「してねぇよ。どう見てもお前に怒られるからビビってんだろ。あーあー可哀想に」

「……な、泣いてねぇし!」

バレバレの嘘をついてまでプライドを死守する俺。遊貴先輩に腕を掴まれたまま涙をごしごしと拭った。

「お前そんなに泣くくらいなら無視すんなよな……」

「うっ……だから、泣いてねぇって」

「鼻水出てんぞ」

俺の服の裾で鼻を雑に拭かれる。ちくしよう、悔しい。悔しいけど怖い。

「俺さぁ、メール無視られてマジで腹立ったから、お前のこと探したんだよ。でもさ、真宮響介なんて奴、この学校にいねぇの。何で?」

「え」

どんなに頑張っても止まらなかった涙が一瞬で引っ込んだ。これは予想外のアクシデントだ。いや、予想できたけど俺の考えが足らなかった結果のアクシデントだ。

「なぁ、何で?」

「……やー、でもあれっすよね、先輩も元々橙から樽岸に変わったし、そう珍しいことじゃ」

「響介なんて名前の一年は、この学校にはいない。外部生以外も隅々まで何度も調べた。でもお前は見つからなかった。まさか名前まで変わったなんて言わねえよな? 響介」

「……」

ほんとの事は絶対に言えない。でも俺が偽名を使ってることはバレてる。この状況でどう言えば誤魔化せるというのか。

「諸事情で、名前を変えて通ってます……」

「えっ、そんなことできんの!? すげー!」

もっともらしい言い訳がまったく思い付かなかったので、俺は話せる範囲で正直に答えた。それに反応したのは遊貴先輩ではなく金髪の方だったが。

「諸事情って何」

「そ、それは勘弁して下さい……」

何か借金取り相手にしてる気分だ。いや、借金なんかしたことないからわからないけど。

「言えないのが諸事情なんです、マジで」

「……ふーん、ならいま使ってる名前言えよ。正直に言ったら事情は聞かないでやる」

「えー…」

事情を聞かれずに済むのは良いが、小宮今日子ですとは間違っても言えない。女装してるなんてバレたら終わりだ。

大丈夫、落ち着け。俺のあの完璧な女装がこいつにバレるものか。今さえ乗りきればこいつからは確実に逃げられる。

「……田中、よしお」

「嘘つけ」

「いてっ」

俺のテキトーな嘘の名前はすぐにバレて容赦なく頭を叩かれる。田中はちょっとありきたりすぎたか?

「山田よし…」

「だから嘘つくなって! この学校にいる奴の名前くらい聞けばわかるんだっつーの!」

「遊貴すげー。俺クラスの奴らの名前もわかんねーのに」

無駄に記憶力のある先輩にテキトーな嘘は通じなかった。でも口振りから察するに名前と顔を一致させて記憶してるわけじゃなさそうだ。こうなりゃ実在する一年の名前を言ってこの場をしのごう。

「……」

いざ口を開こうとして、まったく名前を思い付かない自分に驚いた。俺が覚えている一年男子の名前なんか八十島と鬼頭しかない。この二人は目立ちすぎて絶対に俺じゃないとバレる。誰か、誰か、と頭を必死に巡らしていた俺がたどり着いたのは、自分でも予想外の人物だった。


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