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ストレンジ・デイズ



「あーなるほど、では俺はこれで」

「ちょっと待てや」

すぐに逃げ出そうとした俺の首根っこは金髪野郎に引っ張られて簡単に引き戻される。派手に暴れて一二三に見つかっては元も子もないない。俺は大人しく奴に捕まるより他なかった。

「お前、一二三から助けてやった恩も返さず帰る気か」

「えー……」

助けてやったって言うのかこういうの? まさか恩を返せとくるとは。普通ならアホボケカスで終了するところだが、遊貴先輩の親友らしいので下手なことはできない。

「恩って、いったい何をすれば……。金なんて持ってないっすよ」

「馬鹿っ、俺が遊貴の後輩相手にそんなことするかよ。今時間あんだろ? 俺の愚痴に付き合え」

「えええ…」

な、なんて面倒な。こっちは一二三に見つかる前に一刻も早く戻りたいというのに。

「ゆーき先輩にでも聞いてもらえばいいじゃないっすか」

「あいつに言ったらぜってー怒られるんだよ。というのもな……」

人の意見も聞かずいつの間にか奴の愚痴が始まった。金髪が勝手に話す内容を聞くに、片想いの相手が全くつれないという心底どーでもいい内容だった。

「遊貴も他の奴らもさっさと諦めろって言うわけ。でも俺、そいつのこと好きだし、話してると楽しいし、身体の相性もばっちりだし、どーにかして付き合いたいんだよ」

「……身体の関係があるなら、付き合ってるようなもんじゃねーの」

げんなりしながらも相手をしてやっているというのに、奴は目をひんむかせて噛み付いてきた。

「わかってねぇなー。全っ然、わかってない。お前ノンケだろ? 俺達はセフレなの。身体だけの関係。あいつがやりたくなった時にだけ呼ばれる都合のいい存在……」

見た目に似合わずじめじめした性格の奴だ。何で俺がこんな夜中にホモの恋愛相談になんか乗らなけりゃならんのか。

「ならさっさと諦めろよ。告白してフラれるか、自分から諦めるかすればいいだろ」

「そんな答えを聞くためにお前に相談してんじゃねーんだよ! 周りの奴らとおんなじこと言いやがって。俺はなぁ、あいつが好きなんだ。ただの性欲処理じゃねえってわかってほしくて、色んなプレゼント送ったけど全然受け取ってくれないんだよ。それでもしつこくしてたら怒られて、今日はヤる前に部屋を追い出された。しかも当分会う気はないって、俺、どうすりゃ良かったんだよ」

「……」

金髪と今の自分がなんとなく重なって、俺は聞き流すことができなくなっていた。別にトミーと俺はセフレなんかではないが、境遇は似ている。こいつのやってることは空回りしてるし、正直迷惑だろう。だが俺のやっていることはどうだ? こいつとそんなに変わらないのではないか。好きでもない相手からプレゼントをもらったって、嬉しくもなんともない。しかも手作りって、いらない通り越して気持ち悪くないか?

「……おい、聞いてんのか? おーい」

「プレゼントとか、好きじゃない奴にもらったって、困るよな……」

「や、やっぱりそうなのか?! 俺のこと好きじゃないから、あんなに怒って……」

真っ暗な茂みの影で、俺達は二人して並んで落ち込んでいた。プレゼント攻撃が駄目なら、俺はいったいどうやったらトミーに好きになってもらえるのか。……どうしてもわからない。

「……っと、何だよこんな時に」

突然、ピカピカと金髪野郎のポケットが光りだす。そこから携帯を取りだし、奴は話し始めた。

「なに、今話してる暇ねーんだけど……は? 一二三? それならさっき見たぞ。大丈夫、バレてねぇ」

友人らしい相手と携帯越しにペラペラ話している。一二三の名前が出たということは、奴が見回りしている情報が入って、それがまわってきたってところか。

「それよりさぁ、いま誰といると思う? 後輩のなんつったっけ、キョウヘイ君?」

奴の言葉に俺は固まる。これは嫌な予感がするぞ。

「あー、そうそうキョウスケ君ね。さっき偶然会ってさ。今? えーっとT館の裏口の近く」

俺は音をたてないようにしながら、そーっと立ち上がる。そして奴が気づく前にダッシュで逃げ出そうとした。だが、

「わかってるって、しつこいな。気を付けろよ、まだ一二三がうろついてるかもしんねーし」

こっちに目線もよこさないまま、奴は俺の手首をがっしりと掴んでいた。そして携帯の通話ボタンを切り、先ほどまでの落ち込みっぷりが嘘みたいににっこりと笑った。

「逃げるなって、絶対捕まえとけって言われたんだよ、遊貴にな」


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