ストレンジ・デイズ
□プレゼント大作戦
二時間目が終わってすぐ俺は善の前の席をぶん取り、ヤツのノートを丸写ししていた。授業には出ていたもののずっと爆睡してしまったので、ノートくらいはとらなければ期末で大変なことになる。いつもは唄子のノートを借りているのだが、今日はなぜかあいつも書きもれが多かったらしく眼鏡の女友達に写させてもらっていた。
昨日、兄貴に会ってからどうも唄子の様子が微妙におかしい。いや、本人はいたって普通に振る舞っているが、どこか心ここにあらずだ。しかしだからといって、どうかしたの? 等と声をかける気になどなれるはずもなく。本人が自力で乗り越えて、俺の知らないうちに解決してくれたらいいやなんて考えていた。
「善のノートってほんとわかりやすいなぁ〜。唄子のも字は綺麗なんだけど、ちょっとごちゃごちゃしすぎなんだよなー」
「キョウ、股、股閉じろって」
「やめろよ〜、セクハラだぞ」
俺が無防備に広げた足を閉じようとする善にやんわり抵抗しつつペンを走らせる。この集中力を授業中に発揮できれば良いのだが、教師の声を聞くと眠気が襲ってくる病気なので仕方ない。
「お姉様〜、ノートならこの柊芽々のをお使いくださぁい!」
「うるせ、今話しかけんな」
いったいどこから湧いてきたのか、俺のファンを名乗るチビ女柊がまとわりついてくる。最近は物陰から鬱陶しい視線と声援を送ってくるだけで大人しいもんだと思っていたのに、今日はやけに上機嫌で大胆だ。
「そんな、せっかくあの金髪野郎がいないからお姉様を独り占めできると思ったのに!」
柊のその一言で、鬼頭がいないことに気がついた。といっても奴も四六時中俺にまとわりついているわけではなく、時々どこかへ消えてしまうことがある。他クラスに友達もいないだろうに、いったいどこに何をしているのやら。俺は勝手にトイレだと思っているが。
「金髪野郎って菘のこと? 別にあいつがいても遠慮することないじゃん。てか今は俺がいるからどのみち二人きりじゃないし」
もっともな事を言う善をぎろりと睨み付ける柊。この爽やか好青年をここまで冷たい目で睨み付けられるのはこいつしかいないだろう。
「八十島君には関係ないでしょ。私、あの人っていうか男性全般が苦手なの。特に彼は私のお姉様をまるで所有物扱いして我慢ならないわ。ああいうタイプが影で弱い者いじめとかしてたりするのよ」
「「それはないだろ〜」」
柊の偏見に満ちた発言に善と思わずハモってしまう。あいつのことはキライだが、誰かを影でいびったりするタイプではないだろう。
「お姉様、男なんて簡単に信じちゃだめですよ! も〜、本当にお優しい方なんですから〜」
「……なんか今日のお前キモい」
俺の腕をつん、とつつきながらデレデレしてくる柊に寒気が走る。何でそんなに上機嫌なんだ。
「だってようやくあのにっくき副会長がお姉様から離れてくれたんですもの。そういう意味ではあの胸だけ女にも感謝しなくちゃ」
「おい、俺とトミーは今あんまり一緒にいねえけど、それは一時的なものであってだな」
「あら、でもあの爆乳女は今も副会長にべったりですけど?」
「はあ!?」
話ながらも高速で動かしていたペンを思わず放り投げる程の衝撃だった。トミーの奴、俺の事は厄介払いしたくせにあの女とは変わらずいちゃついてるだと!? それが本当なら大問題だ。
「た、確かめてくる」
「お姉様?」
突然立ち上がった俺に柊も善もキョトンとしている。 今はそれどころではないとわかっていてもいてもたってもいられなかった。
「キョウ、ノートどうするんだよ」
「悪い! 今日差し入れ持ってく時に写す!」
そう善に詫びて俺は慌てて自分の教室を飛び出す。柊のいった通りなら絶対に許せない。俺は爆発しそうな怒りを抑えながら2年A組、トミーのクラスへと全速力で向かった。
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